第1章 お宝発見前夜 3
「次、ここも大切!今回のセミ・クライマックスね。もし俺達のの要求を相手が拒否した場合でも、エキストラの野郎共は全員、その悪い人相をマックスでキープしたまま、相手の船に乗り移ります!ここまでは良いですかぁ?」
し~ん。
ぐうぐう~、があ~。
「マスカネー君、立ったまま寝ないように!」
ぐうぐう~、があ~。
「コホン、次は、相手の船に乗り移ったエキストラは、全員で相手の船のマストに描かれているシンボルマーク、ロゴの事ね。それを指差してこう言います。あれを見よ、あれは鳥か?、飛行機か?、いや、あれはあんた達のロゴマークだっ!ここまでは良いね!」
し~ん。
し~ん。
「さて、お待たせしました。次が
「いよっ、待ってました~!!!」
「その相手のマークをヨイチハンさんが一矢で射貫く。おーっ!と相手が驚いている所にトウシロウ君が、北海愚神拳、屁の呼吸、第三の型、秘技ビリブリ~を披露する。それを見た相手が脱力している間にさっさと酒を運び出すって作戦さ!」
「おーっ!」
「すげぇ!」
「ぱーぺき!」
野郎共が皆、トドマルの作戦を絶賛した。
「だろっ?」
トドマルは、得意気な表情で野郎共の顔を見回した。
「船長!それでも相手が俺っち達に襲って来たら?」
デスカネ・シマッサアが、不安が一杯の顔付きでトドマルに訊ねた。
「そんなの、逃げるに決まってるだろう!さあ、配役の発表は以上だ!明日の朝は早い!今夜は野郎共もさっさと寝る様に!今夜だけは禁酒の事!てか、酒、もう無いし」
トドマルがキャビンの船長室に戻っても、二人の野郎共は甲板に残っていた。
「ヨイチハンさん、俺さ、マフィン団に入団した時から若しかしたらと思ってたんですけど、この船で敵とまともに戦えるのはヨイチハンさんと俺だけなんじゃ・・・」
トウシロウがヨイチハンに語り掛けた。
「そうだよ」
「やっぱし。それでマフィン団が船を襲ったのは、一体
「そうさなぁ、2年振りってとこかな」
「2年振り?」
トウシロウは、自分が予想した通りの答えだったが、矢張り不安を覚えた。
「ああ、拙者は、自分が海賊だって事を危うく忘れる所だったよ」
「ヨイチハンさんの故郷は蒙古でしたよね。蒙古って海が無いんですよね。それなのに何故、海賊なんかに?」
「海が無いからこそ、拙者は海に憧れた。それで独りでスウェーデンのルンドって街まで来た所までは良かったんだが、そこで俺は空腹過ぎて行き倒れたんだ」
「アッサー!お
「ルンドの街中で拙者を拾って呉れたのが、ルンドから程近いサルトホルム島に拠点を置いていた若きトドマル船長だったって訳さ!まあ船長は今でもそこそこ若いがな」
「トド船長が?」
「そう。だからと言う訳では無いが、稼ぎは無いに等しいけど、船長や皆と一緒にいれれば、拙者はそれで十分幸せなのさ」
「そうでしたか?」
「それより、俺の得物は弓だろ?当然、近距離の戦闘が苦手なんだ!だからトウシロウが入団して呉れたお陰で正直心強いよ!お前は格闘家だから近距離は凄く強いんだろ?」
「えっ?」
「自分では愚神拳なんて言ってるけど、本当は北海神拳の正当な伝承者の筈だ。一見しただけでは隙だらけに見えるが、お前の攻撃と守りの動きに一分の隙も無いからな」
「やっぱり、弓矢の達人の眼は誤魔化せなかったようですね」
「ふふふ」
「北海神拳か?懐かしいな」
トウシロウは、ヨイチハンの顔に深々と刻まれている深い皺を見詰めた。
「船長!早く起きて下さいよ!船長!」
ンスが馬鹿でかい声で、そう叫んだ。
「何だよ!朝っぱらからうるさいなぁ」
「ちっちゃい輸送船らしき船影が見えてます!」
「なに、何?」
トドマルは、慌てて船長室から望遠鏡を覗くと、確かに左舷方向に小さい船影が見えた。
「おおーっ!あれぞ正しく輸送船!しかも
トドマルは、ンスに負けない馬鹿でかい声で叫んだ。
「遂に愛しの君に会えたか!何年振りだろう?俺達が輸送船を襲うのは」
「は~い、2年振りです。あの時も命からがらで何とか逃げれましたが」
何時の間にか、船長室に忍び込んでいたマスカネが答えた。
「マスカネ・クビフール・コケッシ三世君、君はジパングと言う国の忍者か?まあ良い。だが、今回は基本的に逃げない。何故ならこの作戦は芝居だからだ」
「芝居だと愛しの君になるんですか?」
「そうさ!愛しの君を我が手にせんとして、襲い来る敵共を次から次に騙して、食べ物と飲み物を分けて貰う!くーっ、海賊のロマンだね~」
「・・・」
「マスカネ君、野郎共を全員、デッキに召集して呉れ給え!」
「じゃあ、そうしマスカネー」
マスカネは、野郎共に声を掛ける為に、キャビンに向かおうとした。
「あっ、それから君ね、無理してまで語尾にマスカネーを使わなくても良いからね」
「そうですか?では、それは分かったと言う事にしマスカネー」
どうやら、彼らの病気は不治の病だと、トドマルは確信した。
甲板(デッキ)」に野郎共が集合すると、トドマルは
「前方に可愛い小さな小さな輸送船が見えるな。コホン、あれが今回の獲物だ!早朝こそが襲撃のチャンス!!!野郎共、昨日の打ち合わせ通りで行くよ!全員、準備は良いな!」
と、野郎共に命令した。
「船長!俺っち達、今、起きたばっかりで・・・」
ヘンスが
「君達、あれを見給え!ヨイチハンさんとトウシロウ君はデモンストレーションに向けてもうアップを始めているだろ?そして音楽担当のシマッサア兄弟は既に銅鑼の点検を始めている!」
「ああ、本当だ!!」
「あれこそプロ根性!あれぞ海賊の鏡!君たちも見習い給え」
「へ~い」
「それではエキストラの皆さんは、全員正装に着替えて15分後にこのデッキに再集合!」
「船長、おれっち達の正装って?」
「有るでしょう?横縞の、青と白のストライプのTシャツが」
「あっ、あれね!」
「そう、あれ。それじゃあ野郎共、全員、準備を開始せよ!」
「分かりヤシター」
エキストラ全員が、ヤシター操舵長の口真似でそう答えると、それぞれキャビンに戻った。
どうしてこのマフィン団には、言葉の語尾に
確かに皆んな、語尾として使える名前を持ってるもんな。
語尾で使えない名前なのは、俺とヨイチハンさんとトウシロウ君位か?
だがよく考えてみると、俺だって「よし、暫くはこの船にトドマルぞ!」と言えなくも無いけど。
「親ビン、この潮と風向きだと獲物の船舶に15度の角度から追いかけて、左舷に横付けするのがベストでしょう」
そう提案しながら、ヤシター・プリ二ー操舵長がトドマルに近寄ってきた。
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