4-6

「朱美は」私はアビシニアンを思わせる彼女の横顔を思い出しつつ言った。「どうして裏切者になったのだろう?」

「さあね」

 愛染はつまらなそうに欠伸あくびをして言った。

「君の話だけでは推測のしようもないな。井口と別れた後も関係が続いていたのか、殺人計画を練っているうちにまだ愛していることに気づいたのか。事件の頃にはよりが戻っていたことは、彼女が利和に化けている井口に向かって『あんた』と呼びかけていることから想像されるがね。――お気に入りの女性を裏切り者呼ばわりされるのは気に入らないかい?」

「なんだよ、いきなり」私はあやうくコーラを吹き出すところだった。「べ、別にお気に入りなんかじゃないぞ。事件関係者として――」

 しかし、愛染は私に最後までしゃべらせなかった。

「君の物語には10人ほどの人物が出てきたが、動物にたとえた印象まで述べたのは彼女だけだ。よほど心に残っているのかと思ってね」

 私は顔をそむけて言った。

「近くにいたせいで印象が強いだけさ」

「大胆な犯行を行なっている最中だったから、その緊張が表情などに表われていたのだろう。それが君を惹きつけたわけだ」

「そうかなあ」

 私は目を窓の外に向けた。窓の外はもこもことした雲がきらきらと光っていた。

「世話好きな姉御肌あねごはだの女しか見えなかったがなあ……」

「世話好きな女が実は殺人鬼だったという例はごまんとあるさ」

 そう言いつつ愛染は眠ってしまった。

 私はブランデー入りのコーラをちびちび飲みながら、あの日のことを最初から順に思い返してみた。

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