三話 纒子を追え

「変だろ」と机に頬杖突いたのは、オットコ前な朝夏あさか。纒子の友人Aだ。

「なにがぁ」と間延びした生返事でマスカラの色直しへ余念がないのが、褐色ギャルの宵子よいこ。友人Bである。


「纒子だよ。昼飯時にあいつなにやったと思う? いつもの裁縫箱におにぎり詰め込んだんだぞ?」

「ダイエット?」

「どんなだよ。中には米粒ひとつ残ってなかったしよ」

「パスポート?」

「テレポートで海外旅行するならな」


「変って言えばさぁ」と宵子、色直しも済んで生返事をやめる。

「纒子、学校中の自販機を睨み回ってたんだってぇ」

「どうしちまったんだ、あいつ」

 くだんの纒子は自分の席で、ブリキの裁縫箱をジッと睨んでいる。


「直接聞けばいいよぉ」と宵子、立ち上がる。

「おい、待てよ」と朝夏が止める暇もなく。のんびりしているようで動き出せば弾丸。それが宵子、纒子の友人B。


「纒子、カラオケ。リンパの完コピ、付き合って」

「マッサージ?」

「ちがう、リンキン・パーク」

 その上、熱心な洋楽ロックの愛好家。


「ごめん、今日はパス」

「今日はじゃねえだろ。昨日もそのまた昨日もだ。付き合い悪いぜ」

「メンドイ用事があんの。落ち着いたら、なんでも付き合うからさ」

 纒子は裁縫箱を抱えて、逃げ出すように教室を飛び出す。


「あう」とめげる宵子。

「……振られたな」

「なら、尾ける」

 思い立った瞬間以外は凶日とばかりの勢いで、宵子は再起する。

「その行動力、色恋に向いた時が今から怖いよ」

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