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「付喪神は、知っていますか?」
渡されたヘルメットには通信装置が内臓されているようで、走行中も轟の声ははっきりと聞こえた。
「なんだっけ……? たしか、長く使われた道具が妖怪だか神サマだかになるとか、そんなんの?」
「そう。長く大切に扱われた物へ、妖怪変化が宿る。そういう道具を持つ職人は他の者より優れた仕事ができる代わりに、ちょっぴり疲れやすくなるとか」
「疲れやすくなる?」
「精気を吸われて。その代償に、道具が力を貸し与えたそうです。昔には、そういう時代があったとか」
ずいぶんと胡乱な話だ。
「ガチのマジに言ってる、んだよねえ」
あれを目の当たりにした後だ。今、纒子が腰を落ち着けているこのサイドカーでさえ。疑うのなら、自分の見たもの触れた物を疑う事になる。
「でも待って。精気を吸われるって、じゃあなにさ。あの公衆電話にあたしの血でもちょっぴり分けてやれば、それで済んだっていうわけ?」
とてもそうは思えない。
「それはそうだよ」と佑々が口を挟む。
彼は轟の腰へしがみ付き、タンデムシートへ乗り合わせていた。なるほど、纒子の足に触っても顔色ひとつ変えないわけだ。
「スマフォだって二年で買い替えるなんていう今時に、物ひとつ大切に使おうなんてひと、そうは居ないもの」
「その通り。物であふれたこの時代、付喪神なんて絶滅危惧種。だから彼らは適応した、生態を大きく変えたのです。人間との共生関係から、獰猛な捕食者へ」
「それが、ミミック?」
「そう。人間が使う道具へ取り憑き、擬態して人間を捕食する。それが、ミミックです」
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