第5話 かごめかごめ

「徳川埋蔵金」


 あたしでも聞いたことがある。

 徳川幕府倒幕の際に行方不明になった御用金。現在の価値で3000億円から20兆円ともいわれる。昔はテレビで何度も発掘調査が放送されていたらしい。今となってはテレビ自体が埋蔵金みたいな扱いになってしまったがそれは言うまい。


「株とかITじゃなくて、このご時世に埋蔵金って……」

「俺は金の声が聞こえるからいけるいける」

「あたしには徳川埋蔵金に人生をかけて殺された人たちの怨嗟の声が聞こえるけどね」


 しかし、面白そうではある。

 好奇心は九つの魂を持つ猫をも殺すという。

 しかしアマネコのような神様なら殺しようもないだろう。


「いいわ。あたしも協力する」


 そして世界一のお金持ちになってやる。


「盛り上がってるとこ悪いが徳川埋蔵金で世界一の金持ちは無理だと思うぞ」


 横からロクが水を差した。


「わかってるっつーの!」


 でも夢はでっかいほうがいいではないか。

 浮かれているあたしを傍目にアマネコはロクに耳打ちする。


「だいたいロクの字、この女ホントに役に立つめねか?」

「さあな。だが人手が多いにこしたことはねえだろ」

「ちょっと聞こえてんですけど」


 あたしはスカートの中からカナヅチを取りだして自身の手のひらをぴちんぴちんと叩いて具合を確かめる。

 ロクとアマネコはホールドアップして戦う気はないと言わんばかりだ。


「あたしは福崎組の跡取り娘よ」

「だから女子高生のくせに工具持ち歩いてんのか」

「それに重機の扱いはお手の物なの。3歳からユンボ運転してたわ」

「それは法律的にどうなんだ」


 あのロクですら引いていた。

 親が建設業者あるあるだと思っていたが……。

 ショベルカーのバケット部分にあたしは載せられて父親がアームを動かして遊んだこともある。これはさすがに今の時代はアウトなので言わないでおいた。当時も父親とこれは二人だけの秘密だと約束したし。


 ともあれ、とんでもない話が舞い込んだものだ。

 よりにもよって徳川埋蔵金だなんて。

 古い神社に奉納された宝の地図と金の生る卵か。

 あたしが思案を巡らせていると、突如どこからか童謡のメロディが流れる。


 かごめ かごめ

 かごのなかのとりは いついつでやる

 よあけのばんに ツルとカメがすべった

 うしろのしょうめん だあれ?


 そういえば、あたしは子供の頃『後ろの正面だれ?』を『後ろの少年だれ?』だと勘違いしていたんだよな。

 まあどうでもいいけど。

 てゆーか、どこか不気味なんだよね、この童唄わらべうた


 あたしがそんなことを思っていると、突如あたしは背後から視線を感じた。

 バッと振り返ると、神社の境内には狛猫がいるのみで人影はない。


「気のせいよね」


 あたしは安堵の息を吐いた瞬間、ズサッと倒れる音が響いた。今度はそちらを見やるとロクが砂利で舗装された枯山水のなかに倒れ込んでいた。


「ロ、ロクさん!」


 あたしは慌てて駆け寄る。

 まさか先ほど能力を使った副作用か。

 突っ伏したロクは何やら口を動かして訴えている。


「え? ロクさん、何なの?」


 あたしは四つん這いになってロクの口に耳を澄ませた。


「ッタ……ハラヘッタ」

「なんてこった!」


 あたしはロクの金髪頭を思いきりひっぱたたいた。


 ただ腹減っただけかい!


 一瞬、聞き間違いかと思ったわ。

 続けて、ぐるるるぅとロクの腹の虫が鳴った。

 そんな光景を見届けて、アマネコは無責任に言う。


「おキンコ、あとは頼んだめね」

「おキンコって……あたし?」


 あたしは自身を指差す。


「あんた、腐っても神様なんでしょ? なんとかしなさいよ」

「いや、ボクでは空腹を満たすことはできないめね」

「なによ、コンビニにでも行きなさいよ」

「神をパシリにつかうなめね……」


 それもそうだ。


「それにボクはこの神社から一歩も外に出ることはできないめね」

「マジ?」

「メジ」


 どうやらガチらしい。

 結界のようなものなのだろうか。


「つかえない神様だこと」

「うるさいめね」


 悪態を吐きながら迷った挙げ句、あたしはロクに肩を貸した。

 参道を歩いて九十九神社をあとにする。

 その去り際、本殿を振り返った。すると、こちらを見送るアマネコの目の瞳孔が今宵の三日月のように細く輝いていた。

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