第49話:#精霊強化失敗率98%。さようなら希望、こんにちは地獄

第100階層 “死の霊圧” 決戦――


ついに到達した最深部。


薄暗い空気の中、レイスたちは足を止めた。


「ここか……空気が重すぎて笑えないな」


レイスが額の汗をぬぐいながら呟く。


「“残穢”の密度、異常ね。ここが墓所の元凶」


ザラが淡々と告げた。彼女の表情はいつもより険しい。


「さっさと終わらせて帰るわよ、光の精霊の準備を」


ヨミが慌ただしく、魔法文字を空中に描き始める。


「まずは、光の精霊召喚構文を送ります!

あとはレイスさんマンデーにお願いしてください」


「ああ、いつも通りだな。――マンデー、受信しろ」


レイスが集中し、ヨミの構文を脳内の古代遺物マンデーに送り込む。


《構文受領。……この規模、やりがいはありますが……失敗すれば全滅です。


私としては”逃げる”が最適解かと。さようなら未来。》


「余計なこと言ってないで全力でやってくれ」


 


次の瞬間、空間に淡い光が灯り、精霊が現れる。


なんか神々しいけど、出てきた瞬間から顔色悪い。大丈夫?


 


《なお、エネルギー量が致命的に不足しています。

このままでは霊圧の負荷に押し返される確率98%。お気の毒さま》


「また餌が欲しいのかよ。こっちも腹ペコで動いてんだぞ」


ティナが得意げに割り込む。


「爆弾ならまだ残ってるけど?」


「いや、手札は多い方がいい。他にエネルギーになりそうなものは……」


ザラが一歩、封印の前に進み出た。


「ここに霊圧本体、丁度いいのがいるじゃない。

私の封印下にあるから、好きなだけ使って」


そう言ってザラは指先を切り、封印陣に魔力と血を注ぐ。

 魔法陣が淡く赤く光り、中心で蠢く黒い影

――封印された霊圧本体が不穏に揺れ動いた。


「……ちょっと、勝手に魔力を抜くんじゃないわよ!」


霊圧の声が、空間全体にギシギシと響く。


ザラは冷たい視線を送る。


「文句なら、ここまで弱って封印された自分に言いなさい。

うるさいと、余計に絞るわよ?」


「アンタら、ネクロマンサーってほんとロクな奴いないわ……!」


レイスが苦笑いしながら呟いた。


「封印したやつが一番容赦ない……」


ヨミがマンデー経由で呪文構文の調整を急ぐ。


「魔力の流れ来ました!今なら一気に精霊強化できるますよ!」


ザラはさらに指先から血を流し、魔力を供給するパイプ役を自ら担う。


「さ、光の精霊。とっとと暴れて、ここをきれいに片付けなさい!」


魔法陣がより強く光を放ち、封印された霊圧の本体からエネルギーがゴウゴウと吸い取られていく。


「ちょ……やめっ……!やめなさいってば、ちょっと!

――こ、こんなの聞いてないわよ!」


黒い影が激しく揺れ、空間が歪む。


だがザラは容赦なく言い放つ。


「無駄口叩いてる暇があったら、黙ってエネルギーになりなさい」


封印の魔法陣から、ごうごうと魔力の奔流が光の精霊へと注ぎ込まれていく。


淡い光だった精霊たちは、みるみるうちに色彩を増し、体躯も一回り、二回りと巨大化していく。

羽はまばゆい金色に輝き、周囲の闇を飲み込むほどのオーラを放った。


マンデーが冷静に分析を入れる。


《エネルギー供給、十分。光属性精霊の戦闘能力が規定値の三倍を突破。

やりすぎです。》


「すご……こんなハッキリとした精霊本体は初めて見たかも」


ヨミが小さく息を飲み、緊張と期待が入り混じる空気の中、ザラに視線を送る。


「それでは、――ザラさんお願いします。」


ヨミが少し緊張した声で言う。


ザラはひとつ深呼吸し、剣の柄に手を添えた。


「……封印を解く。正直、気が進まないわね」


ザラが呪文を口にし、指先から血が一滴落ちる。

その血が空中で淡い魔法陣を描き出す。


「いくわよ――開門(アンロック)、解呪(ディスペル)、

 現世へ顕現(マテリアライズ)!」


封印の結界がパキパキと音を立てて割れていく。空気が一気に冷たくなる。


 


同時に、マンデーが呼び出した光の精霊たちが、一斉に闇の渦へと飛び立った。


精霊たちは黄金の光を放ちながら、残穢の黒い波を一気に押し返していく。


最初は確かな手応え――闇が裂け、闇に封じられていた叫び声が消し飛ぶ。


「よし、効いてる……!このまま浄化できれば――」


ヨミが希望に満ちた声をあげる。


だが――


闇の奥、霊圧の中心がぐわりと膨れ上がった。


SNSから流入する負のエネルギーが、どんどん霊圧に集まっていく。


光の精霊たちの勢いが、目に見えて鈍っていく。


「……え、なんで?精霊の光が……」


黄金の羽が、黒い瘴気に呑み込まれる。


一体、また一体と、精霊たちが闇に絡め取られていく。


「精霊の数が全然足りません!」


ヨミが顔色を失う。


「SNSの負のエネルギーが巨大すぎて精霊が押し返される……!」


レイスが歯噛みする。


「あなた達の炎上っぷりが本物だって事がよくわかったわ」


ザラの皮肉に、ヨミは肩をすくめて苦笑いするしかなかった。


 


闇はさらに膨れ上がり、光の精霊たちを圧倒しはじめる――


このままでは、現世が闇に呑み込まれてしまうのでは、

と誰もが感じるほどの絶望感だった。

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