第54話「信じることのリスクと救い」
#第54話「信じることのリスクと救い」
そうしておれはいじめの基本的な対応を決めた。とは言ってもこれまでやってきたこととたいして変わらない。
一つの大きな方針を決めただけだ。
――「生徒を信じる」
馬鹿みたいな話かもしれないがこれが俺のいじめ対応の基本的な方針だ。
これまでは疑ってかかることがほとんどだった。だって、信じても裏切られるのが世の常だ。
でも、いろいろ経験して分かった。
裏切られるリスクを恐れていたら何も始まらない。そして相手を信用しないと信用してもらえない。
そもそも裏切られたって別にいいじゃないか。そんなことはタイムリープしているうちに慣れた。精神的に慣れさえすれば別に物理的に損する話でもない。
それから何度もいじめ対応をしたが基本的には全部許した。俺の心の中に留めたのがほとんどだ。
もちろん、裏切られたこともある。
だがその理由が分かると、「仕方がない」と思えることも少なくなかった。
例えば、家が極端に貧しかった生徒。
親には借金取りが出入りしているような家庭もあった。
中には、親から暴力を受けている生徒もいた。
そんな環境でまともに育つのは、むしろ奇跡だ。
「家に帰りたくない」と笑いながら言うその目は、どこか諦めていた。
……そういうのを知ってしまうと、簡単に責めることなんてできなかった。裏切られても仕方ないと思えた。そしてできるだけ生徒に寄り添ったつもりだ。もちろん完璧な対応など俺一人ではできないけどな。
とにかく俺は、信じることを選んだ。
そのうちに俺は評判になったようだ。
「黒崎先生って、熱血教師だよな」
「あんな信用できる先生見たことない」
「相談するなら黒崎先生がいいぞ」
笑ってしまった。
俺が熱血教師? 柄じゃない。
でも……なんか、悪くない気分だった。
俺は聖人でも理想の教師でもない。
ただ、霧島先生や他の人から教わったことをやってるだけだ。
そうして悪くない人生――そう思えるようになっていた。
だが、心のどこかではずっと待っていた。
俺と同じように“タイムリープしている”生徒に会うことを。
霧島先生は教師になって何度、同じ日々を繰り返してきたのだろう。
もしかしたら俺と同じように悪くないと思っていたのだろうか?
俺も、教師という職業は向いてるのかもしれない。
でも……もう、何度も何度もタイムリープするのは嫌だ。
俺はこのまま何度も人生を繰り返すのか?
そんなことを考えていたら、急に無性に腹が立ってきた。
「なあ、神様。なんでタイムリープ終わんねえんだよ!」
空を見上げて叫んでみた。
「もう十分やっただろ!出てきやがれ、神様!」
俺の声は、虚空に吸い込まれていった。
返事なんかあるわけないのに、それでも俺は叫びたかったんだ。
――俺の人生はまだ終わっていない。
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