第25話「小さな感謝と、一度きりの約束」

#第25話「小さな感謝と、一度きりの約束」

 

教室の空気が落ち着いた放課後、俺は佐々木を呼び止めた。


「佐々木……この前はありがとうな。助かったよ」


「えっ?何のこと?」


図書室で貸し出し記録をつけていた佐々木が、小さく首を傾げた。


「この前、俺が先生に『黒崎のように喧嘩したら駄目だ』と言われた時に俺のこと最初にかばってくれただろ。あのとき先生に一方的に疑われたままだったら面倒だった」


「あ、あれは……当たり前のことだよ。みんな黒崎君のこと庇っていたし、私なんてその中の一人でしかないよ……」


俯きながら手元のノートをいじるその仕草が妙に真面目で可愛いと思った。


「違うさ。最初に声をあげるのが一番難しいんだ。追いかけて同調するのは簡単だけど、最初に『それは違う』って言うのは勇気がいる」


「……そ、そうかな……。」


「だから、感謝してる。本当にありがとう」


 まっすぐに言葉を向け頭を下げるると、佐々木は顔を赤くして目をそらした。


「そ、そんな……まっすぐ言われると、恥ずかしい……。」


 耳まで赤い。

 ……純粋すぎる。本当に、いい子だ。


「何かお礼をしたい。もちろん俺にできる範囲だけど」


「……じゃあさ。」


 小さな声で、佐々木が切り出した。


「お礼……してくれるなら……一度だけでいいから……デート、してくれる?」



 一瞬、息が詰まった。

 佐々木の頬は真っ赤だが、瞳は真剣だった。


「……いいよ」


俺は軽く笑った。


その週末、俺たちは軽くショッピングセンターを見て回りその後に街の小さな洋食屋に入った。


佐々木の希望でオムライスとパフェを頼む。

俺の財布には競馬で増やした小銭が十分にあるのでなんてことはない。


「本当に奢っちゃってもらっていいのかな?何だか逆に悪いよ」


「いいよ、今日はお礼なんだから」


俺が笑うと、佐々木は小さく笑い返した。かわいいな。


食後、駅前の小物屋でささやかな雑貨を見て回った。


佐々木が猫のキーホルダーをじっと見ている。

「欲しいのか?」


「えっ……いや、いいの。無駄遣いだし……。」


「ほら、持っとけ。今日の思い出ってことで。」


レジで会計を済ませて、袋を渡すと、佐々木は涙ぐみそうな笑顔を見せた。


「……ありがとう。これ大事にする。」


 

駅前で別れるとき、俺は思った。


(佐々木……本当に、いい子だな。)


心の奥が、少しだけ温かくなる。


けれど――


(駄目だ。のめり込むな。これ以上は……。何度も同じ失敗をしてはいけない)


 幸せそうに手を振る佐々木を見ながら、俺は心の奥で自分に言い聞かせた。


(絶対に……冷静でいろ。)

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