リンフォン殺人事件
臆病虚弱
序篇 私立パスツール女学院・名探偵『法水麟音』釈義
第1話 天才狂言探偵・法水麟音
……………
私立パスツール女学院。
『
名前の由来は初代学長・アルベルト・パスツール氏から来ており、彼は
というのもこの学園、私立女学院ということもあって上流階級というべき名家や企業取締役などの子女たちが集まっており、教員も理事長が招集した研究者や一流というべき元塾講師、家庭教師など、通常の学校とは一線を画するプロが在籍しているのだが、そうした共通点だけではない、ある奇妙な符号がここにいる人間たちにはあった。
それは全員が社会より逸脱した倫理や思考、能力を示すということである。
何かに精力的な人間について回る宿命か、本館や別館、寮に通底した
とかくこの学園に生活を営む者たちは何らかの病的な性質を示すと周辺住人達は噂する。
おそらく、その風評の多くはある一人の女子生徒によって真実味を補強されていると言えよう。
過去幾つもの
彼女はその明晰な頭脳と卓越した想像力で以て学園内外で起きる
―――――
「知っているかい?
太陽というのは西欧で神の住まう場所とされてきた。日本でも最上位神・天照大御神は太陽神だ。太陽というのは太古の昔から崇拝される対象だったのは言うまでもないだろう……。
だがね、太陽の
ベンチに座っていた制服の少女は指をくるくると回しながら別の隣にあるベンチに座っていた少年に話しかける。
少女は不敵な笑みを浮かべ、ウルフカットのような髪形をしており、どことなく神妙な、それでいて大胆な、年不相応に大人びた雰囲気を口調だけでなく容姿にも見に纏っていた。
物静かそうな、やや神経質な様子のある少年はやや困惑した様子で相槌を打つ。
「え? ああ、そう、ですね」
「大抵はイメージ通りの……。円にとげを付けたような象徴だ。だが西欧では多くの場合そこに顔が示される。あれには興味深い由来があってね。私も少し調べるのに骨が折れたが、いくらかの文献を参照すると見えてきたものがある」
「はぁ……。というと……?」
少年はは困惑しながらもやや興味をそそられたのか聞き返す。
「『信仰』さ。
西欧における倫理規範は神のもとで厳格に審査されるという。
まあ、要するに神の居る天球の頂点『太陽』から神は見ているということだ。だからこそ罪人は夜の闇に紛れる……。あるいは太陽が沈むからこそ夜の闇が栄え、罪人がそこに紛れることができる……。フン。まあ因果というのはことに曖昧模糊だからそれはいいさ」
「なるほど……?」
「だがここからが面白いところでね……。これは日本にも通底する事象なのではないかということが浮かび上がってきたんだよ」
「日本にも? でも……」
「そう、日本は近代では久しく無神論国家なんて呼ばれている。だけれどもそれは『信仰心』というものを我々が意義的に理解していない。あるいは西洋の事例ばかりに目を向けすぎているだけだと言えるのだよ。
考えてみたまえよ、道徳的不義理を隠れてやった人間に対して『世間が黙っていない』『良心の呵責は』『お天道様に顔向けできない』……。
これらはすべて『信仰心』さ。西欧のある学者は東洋西洋の信仰形態の相違をこう解釈した『唯一神教と多神教は双極の関係にあり、一神教に近づくほど狂信的で排他的性質を示し、多神教に近づくほど迷信的で習合的性質を示す』と。
なるほどこれは非常に
日本のような多神教では伝説や迷信じみた現世利益が尊ばれる、反対に西洋では場所にもよるが迷信や現世利益は忌避され、精神的な高潔さと死後の安静を求められるわけだ。だが、どちらにしても信仰は信仰。どちらも道徳的意義と『監視』の性質がある。その監視の性質こそが『世間とお天道様』つまりは先程述べた
「はぁ、なるほど……」
「最高神が遍く大地を監視する存在だからこそ人々は日のもとで道徳を志す……。
しかし先程同様に夜はそうした神の監視が弱まる。あるいは夜は闇だからこそ人の目を盗める、故に神の目も届かないだろうというのか……。
いずれにしても人間は古来より闇夜に悪を見る。だが、日本の闇夜は月が出ている限りは安泰さ。天照大御神の弟、
そして日本の最高神はもう一体、
ああ、そしてこれは西欧三位一体に通じるわけだ……。
なんとも面白い話じゃないか、日本と西欧、神道とキリスト教、これらは奥底で通じるものがある。世界というのはかくも狭いものなのだね」
「ハァ……。確かに興味深いですね……。どこでそこまでの知識を……」
少女の流れるような講釈に対して少年は感嘆の溜息とともに称賛する。思わず拍手を軽くするほど彼女は目の前の制服を着た女子生徒に『呑まれた』のだ。
彼の感動は本物である。
少女は笑みをこぼして立ち上がり去っていく。
次なる『嘘を教える相手を求めて』。
彼女こそ『
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