第5話

第5話



「---なさい、-わよ...、起きなさい、おき、起きなさいってば、朝になったわよ!」



先日の出来事にまだ頭の整理が追いついていないのか、頭痛のする頭を抱えながらカーテンの隙間から除く朝日に意識が覚醒させられる。


腹の上には白い毛玉もといレインが猫の姿で俺の腹をふみふみしながら朝飯をねだってきていた。


......



「せっかくなら新婚らしくもっと甘い目覚めを迎えたいな...」



猫の姿になってしまっているレインはそんな俺の呟きにはっと顔を赤くさせ、



「仕方ないわね...」



と腹の上から降り、仰向けで寝ている俺の顔の横までトコトコと歩いてくると、淡い光を放ちながら人間の姿へと変身し、大きなアーモンド型の瞳をぱちくりとさせ、顔を俺に近づける。


その距離は少しでも俺が動けばマウストゥーマウス出来る距離まで達し、レインの息が俺の首筋へと吹きかかる。


か、顔が近い.....


心は脱童貞し、紳士でいるつもりの俺にとってもこの超近距離からの美少女の熱視線に耐えられるほど屈強な精神は持ち合わせていない。


このような展開がようみるアニメや漫画であれば俺は真っ先に押し倒すのに......


などと心の中で文句を垂れていたがそんなことはできないことを今この瞬間に身をもって実感した。


レインの澄んだ碧眼の瞳にすみこまれるように見入っていると、レインは悪戯っぽく笑みを浮かべ俺の上に乗っかった状態で耳元で囁いた



「おはよ、......ダーリン」



「おはよう、マイスウィートハニー」



「!!?」



まさかの反撃を食らったとばかりに先程までの余裕な表情を崩され、赤面するレイン。


あんな魅力的な起こされ方をしてなにも返事をしないなどと無礼なことは俺、川崎レンはしないのだ。



「お、起きたならはやく朝ごはん作ってよね!」



そういうと耳まで赤くしたレインはそそくさとベットから飛び降り、ドアの方へと行ってしまう。


ちなみに彼女の服装は昨日着せてあげたパーカー一丁いっちょうなのであまり暴れられると色々と見えそうになるので大変あぶない。


ドアをバタンと閉めてリビングへと向かったレインの背中を見て、俺は昨日のことが夢ではなかったとようやく実感することができたのだった。




---


俺がトーストとサラダという簡単な朝食を2人分準備していると、リビングのソファーからレインが興味深そうにこちらを見つめてくる。


レインは「何か手伝えないかしら」とキッチンまで入ってくると、冷蔵庫から野菜を取りだし、それを空中に舞わせた。



「ちょ、おまなにして」



「『ウィンド・カッター』!」



レインがそう叫ぶと空中に舞った野菜たちはそれぞれ理想の形へとカットされていった。


......なんでもありだな魔法って。


レインは1口大になったトマトを鼻歌混じりに盛り付けしている。


美少女は朝食の準備だけでも絵になるな、と俺が見入っていると



「.....? どうしたの? 顔になにかついてるかしら?」



「いや、もう1回ダーリンって呼んで欲しいなって」



「ッ! バカ! 呼ばないわよ! あのときはあたしも少し寝ぼけていただけだから!」



バカバカと猫の手でポカポカしてくるレインを宥めつつ、完成した朝食をテーブルに並べて食事をとることにした。



「......! 美味しいわねこのトースト? という食べ物は、パンなのに外はパリッとしていて中はもちもちよ! この野菜たちもシャキシャキで美味しいわ」



そういえば、ゲーム中レインに食事を与えたことあったっけ?


効率を優先しすぎてあまり食べさせてなかったような......


レインの幸せそうな顔と膨らむ頬っぺたを見て俺は過去の行いを深く反省し、これから美味しいものを沢山食べさせてあげようと深く心に誓った。






---


朝食をとり終わりテレビを付けてみると、テレビに映った光景に思わず口に含んだ水を吹き出す。



〈速報です! なんと-県-市に謎の物体が突如として出現しました! これを受けて-市長は---、また、若者に人気のスポットとして---〉



「どうしたの? 喉に詰まっちゃった? 背中さすってあげるからこっち来なさい」



何か勘違いして俺を介抱しようとするレインに俺は咳し終えるとテレビを指さし



「あれ、絶対向こうの世界の影響受けたやつだろ」



テレビに映ったゲームのバグとしか思えないような挙動を見せる物体をレインに教える。



「.....! あれはあたしの世界にあったポーションだわ!」



......


昨日の今日でさっそく世界がバクり始めました。

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