「犯人は…………東鶴過子さん。彼女にしか犯行は不可能」

 みむろは言い放った。

「ふっ、あの子が何で実の父親を」

 久乃は鼻で笑う。みむろは気にせず続ける。

「会社から家へは、会社から塾までより近い。久乃さんが会社を出る車には過子さんは乗って無かった。彼女にしか携帯からメッセージは送れない。彼女は会社から自宅に徒歩で帰っている……はず。若しくは裏口に細工をして、久乃さん達二人が会社を出てから二十分以内に戻って来てもいい。多少照明の点灯時間が延びても気が付かない」

「確かにあの子は歩いて家に帰ったけど。でも、あら、みむろさんは見た物を忘れないんじゃなかったかしら、照明がついている時間が延びたら異変に気が付くはずでしょ?」

 久乃は反論する。一見してただの小娘のみむろに言われるままにするのは気に入らないのだろう。

「私なら気が付く。でもその時間、私はお風呂。鼎君は気が付かない、なかった」

 ナチュラルにディスられている鼎だが、反論は出来ない。

「それで過子さんは、睡眠薬とお酒で深く眠っていた貴史さんを刺殺。箕島さんにメッセージを送ってからエアコンのタイマーをセットした。もちろん過子さんは私達が浮気の張り込みをしていた事は知らない。大体の死亡推定時刻に箕島さんが会社内に入ってくれれば良い。ただ想定外だったのが、ポーチライトと廊下の証明が点灯しなかった事と私が張り込みをしていた事。これで社内の空調が止まっていたのがわかった。空調が止まっていたのなら死亡推定時刻が変化する。これでアリバイが無かった箕島さんにアリバイが生じる」

 みむろの口が今までになく饒舌だ。だが言葉足らずなところもある。そこを鼎が補足する。

「機械室に廊下そして社長室。あれだけの範囲をクーラーで設定温度まで下げようと思ったら一時間以上は掛かります。なので箕島さんが会社にいたと思われる時間に貴史さんが殺害されたとすると、もっと遺体の体温が高くなるはずなんです。なので箕島さんにはアリバイが出来る。なにせ彼女が会社から出ていく所は私達が見ていましたから時間は動かせない、そして過子さんなら、事件や葬儀でごった返すあずまの社屋内で、携帯電話のメッセージの取り消しが可能です。これは箕島さんや澤井さんには不可能な事です」

 鼎はあくまで静かな口調だ。久乃のショックをできる限り和らげたい。娘が夫を殺した等考えたくはない。

「箕島にアリバイがある事は分かりました。でも何故、過子が……。夫とは仲が良かったのに……。殺すまでの動機なんて……」 

 それでも久乃はかなりのショックを受け頭を抱えた。鼎には久乃にかける言葉は見つからなかった。

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