第2話 思わず逃げ出した

「青砥君、青砥君」どこかで俺を呼ぶ声が聞こえる。

「青砥君っ」強めに呼ぶ声。背中に手をかけ揺すられた。目が覚めた。

「次、順番、当てられるよ。」隣に座っている女子に小声で教えられた。

 あれ?誰だっけ?この子?授業中?はぁ?授業中?俺はびっくりして思わず立ち上がる。

俺を起こしてくれた女子もびっくりして、「まだ、順番じゃないよ!」という顔でこっちを見た。

「どうした?青砥」板書していた先生が俺に声を掛ける。ぐるっと周りを見渡す。まごうことなく授業中の教室だ。

 みんなこっちを見てる。その中に美紀の顔があった。「うえあっ」俺は思わず大声で叫んで教室から逃げ出した。

「おいっ、青砥っ」後ろから先生の叫ぶ声が聞こえたが、がむしゃらに走った。ハアッハアッ、校庭の端にある体育倉庫の隣のトイレにいる。

 何なんだ?これは。間違いなく俺は撃たれた筈だ。慌てて制服のワイシャツをたくし上げ腹を見る。弾痕は・・・無い。出血も無かった。あと、なんで学校?

 トイレの洗面台に備え付けの鏡を見る。

 そこには・・・、小太りで童顔、少し天パの長めの髪。コンプレックスまみれの、まごうことなき高校生の俺がいた。

狂っているのか?俺は青砥信哉、32歳。A県警 組織対策課、巡査部長、刑事。犯人に撃たれて殉職したはずだ。

 もしかしてまだ死んでなくて夢を見てるのか?蛇口をひねり水を流す。

 ジャブジャブ顔を洗った。そして改めて鏡を見る。変化は無い。拭くものが見当たらなかった為に手をズボンにこすりつけた。

 ん?尻のポケットに何か入っている。取り出してみるとそれは生徒手帳だった。

 3-C青砥信哉。平成22年度。今は何月だ?夏服着ているし、体感からいっても夏だ。

 そもそも美紀がいた。考えろ、考えろ。美紀がまだ生きている。うれしいけど、怖い。あいつは3年生の3月に自殺した。

 ということはここはやっぱり死後の世界か?じゃあ、クラス全員死んだのか?ありえないだろ。

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