第3話「朝陽のメッセージ」

 初恋、と聞くと、人によっては幼稚園のときとか、けっこう早いイメージを俺は持っているのだが、そんなものなのか、そうでもないのか。


 俺は、高校生になる今まで好きな子はいなかった。

 女の子と話せないわけではなかった。ただ、今までは『好き』という感情にならなかったようだ。


 でも、彼女――宮本朝陽は違った。

 朝の陽のような明るい笑顔に、俺は心臓がとくんと鳴った。


 性格も明るく、俺なんかともよく話してくれる。

 この高校に入学して、このクラスになって、最初に見た彼女の笑顔は、女の子の友達と話しているときの笑顔だった。


 こんな綺麗な笑顔をする子がいるんだな。

 俺は、心の中でそう思っていた。


『夜をお過ごしのみなさま、こんばんは。こちらケイネットFMからお送りする――』


 軽快な音楽の後、今日もいつもの声がラジカセから流れる。このラジカセは父が使っていたものをもらったのだ。今どきラジオはスマホからでも聴ける。それでも俺はこのラジカセから聴くことが好きだった。


『――今日もはじめにこのコーナー。〝あなたの想いを聞かせて〟』


 俺の想い。

 それは間違いなく、宮本さんを想う気持ちだった。

 今日はどんな恋愛相談だろうかと、ラジオに耳を傾けていたそのとき、俺のスマホが光った。机の明かりだけの暗闇の中、画面に映し出されたのは――


(……え!? み、宮本さん!?)


 今は夜の23時17分過ぎ。画面には間違いなく『宮本朝陽』の文字。彼女からRINE、メッセージが届いたのだ。

 クラスのグループRINEがあるから、一応宮本さんのアカウントも知っていた。でもこうして個別に送られてくるとちょっとドキッとする。


『ハロー、太刀川くん、起きてるかな?』


 ……今は夜なのにハローというのもなんか変だなと、クスっと笑ってそのメッセージを眺めている俺だった。

 俺はポチポチとスマホを操作して彼女にRINEを送る。


『起きてるよ。ていうか宮本さんも起きてたんだ』

『うん、今日は勉強してたんだー。どうだ、私もすごいでしょ?』


 ちょっとドヤっとした顔の彼女が頭に浮かんだ。


『あ、うん、でも宮本さんって朝何時に起きてるの?』

『6時だよー。その後準備して、7時には家を出るかな!』


 は、はやっ……! と思ってしまった俺だった。6時なんて俺はまだ夢の中。起きた記憶がない。


『早いね、どうりでクラスで一番になるわけだ……』

『ふっふっふ、太刀川くん、私は朝が強いからね! このくらいなんてことないのだ!』


 またスマホの向こうでドヤっとした顔をした彼女がいる気がした。


『そっか、俺は朝が弱いからなぁ、うらやましいよ』

『太刀川くんは朝が弱いって言ってたもんねぇ。どう? 私と一緒におやすみしない?』


 なんだろう、『私と一緒に』という言葉にドキッとした。彼女はそんなにドキリとさせたくて言ったわけではないのだろうけど。


『あ、じゃあ、そうしてみようかな……』

『うんうん、その方がいいよー。じゃあ、布団に入るね』


 俺はバタバタとノートやペンを片付けて、ラジカセの電源を切った。

 ロフトベッドに上がり、横になってみる。この時間に眠れるのだろうか、最近はもう少し遅くまで起きていることが多かったからな……と思っていると、


『太刀川くん、おやすみ』


 と、一言のRINEが来た。慌てて俺も返事をする。


『宮本さん、おやすみ』


 ……結局今日も、手紙は書けなかった。

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