ロマンを求めて
あの「調子こいてたら力暴走しました事件」から三月ほど経ったある日。
ありがたい事に、あれからもずっとレイゼさんが協力してくれていたおかげで、危険なことが起きても冷静に対処することが可能となり、割とスムーズに練習することが出来た。
ホント、感謝しかありません。
そしてそんな練習の甲斐もあってか、俺はとうとう…
「……出力よし、調整よし、操作もよさそうですね。……これなら、もう大丈夫でしょうか」
「つ、つまり?」
「…合格になります、ご主人様。これなら、もう完璧といってもいいかと。 ここからは、発展形の練習に手を出しても問題ないかと」
「いぃよっしゃぁぁぁぁぁ!!」
レイゼさんに合格点を貰い、無事に力の調整・操作の練習を終わらせることが出来たのである!
期間が少し長かっただけに、思わず大声を出してしまった。レイゼさんが温かい笑顔で、こちらを微笑ましそうに見ている。
…恥ずかしさで顔が赤くなる。頭から煙が出ているんじゃないか、と思うくらいには顔が熱い。
はしゃぎすぎた……
「恥ずかしがらなくて大丈夫ですよ? 喜ぶのも無理はございません」
「いやぁ、俺も年頃といいますか…。恥ずかしいものは恥ずかしいなって…」
俺がそう言うと、レイゼさんはクスリと楽しげに笑う。
おいおいおいおい、可愛いと美しいが同時に存在しているぞこの人、最強か?
「…では、今日はもういい時間ですし、お部屋の方で気持ちを落ち着けてはいかがですか?」
「そうする…」
正直まだまだ喜び足りないので、今は我慢して部屋で喜びの舞でも踊るとしよう。
3か月間ずっと練習してたからね、やっぱりこう、ネガティブな感情もあった訳ですよ…。俺には無理なんじゃないか、とか言って諦めかけた時もあったし…。
その度に自分のやりたい事を思い出してなんとか気を保ったけど、それでもキツイものはキツかった。
努力せずに強くなれるなんて、そんな都合のいい話は無かったんだなって…。
まぁ、前世でも普通のチートよりは努力チートの方が好きだったし、結果的に達成感が凄くて後悔はしてないからいいけどね!
おっと、この新しい体の才能が高いんだから努力チートとは呼べないだろとか、調子に乗りすぎだろ帰れとか聞こえてきそうだな。この話はやめておこう。誰が何と言おうと俺は頑張ったし、これからも努力を続けるのだ!
この日は、この後家に帰って即部屋に戻り喜びの舞を踊ってご飯を食べて寝た。休むことも大事、にんげんだもの。 くろを
──────────
基礎練習の合格を貰った翌朝。
俺は起きてすぐに、本を開き次なる練習法を読み込んでいた。
どうやら、次からは発展形としてとうとう"魔法"を覚えていくらしく、俺は少年心が疼きまくるのを感じていた。
この胸の高鳴り…これが、恋…?きゅんです。
…あっ、違う? そっかぁ…
魔法とはいっても、やはり最初は簡単なものから。これはどこの世界でも変わらない物だと思う。
最初からドデカイ魔法を撃とうとしたって、また抑えきれなくなってドカーンがオチなのだ、仕方ない。
この世界における魔法の強さ、というのは大きく分けて5段階。
"初級魔法"、"中級魔法"、"上級魔法"、"極〇魔法"、"〇絶魔法"となる。〇の中には、その魔法の属性の色が入る感じ。例えば、火の極魔法だったら"極赤魔法"、草の絶魔法だと"緑絶魔法"とか、そんな具合である。う~ん、まぁカッコイイからヨシ!
…いや、ダサいか?…えぇい黙れ脳内の理性!シンプルイズベストだ!単純な名前でもカッコイイだろ!某正義の仮面さんも最初は1号2号とシンプルな名前なんだぞ!
ンンッ、話が逸れた。
とにかく、これを初級から基本的には練習していく訳なのだが、一つ問題がある。
それは、黒と白は扱いが難しすぎて、初級魔法ですらマトモに出せないということ。
魔法というのは、自分の内から出した魔力を術式に沿って流し、術式全てに魔力が行き渡ると、その術式の魔法が出る…というものなのだが。
正直、今の自分にはまだまだ出来る気がしないのだ、これが。
操作も出力も出来るようになったんだから余裕だろ、とか言われるかもしれないが、これがまあ出来ない。
そもそも黒の魔力というもの自体がかなり繊細な操作を必要とされる色だというのに、それに加えてこの色の初級魔法の術式がかなり複雑なのだ。
分かりやすく言うと、他の基本的な赤や青、緑などの極魔法に匹敵するレベル、といえばいいのか。
その分初級の割に結構強力らしいのだが、なんでこんなに難しくしたのかと文句も出る。出る、が…
本さんが、要約すると「全部を真っ黒に染めるレベルでヤバい色の魔法が、簡単であっていいはずがないだろJK」と仰っているので、出た文句はまぁすぐに引っ込んだ。
ま、まぁ?初級からすでにこんなロマンもりもりなんだから?俺のこの溢れ出るやる気にかかればすぐにマスターできるし?
……ホ、ホントだし……。
とにかく、本は読み込んだ。練習方法はいたって簡単!覚えた術式をイメージしながら、そこに自分の魔力を一ミリたりともズレないように流し込むだけ!型抜きとかがイメージとしては近いかな?
さぁ、レイゼさんが作ったご飯を食べたら、早速外に出て練習開始!頑張ります!!
──────────
結果から言うと、五か月かかりました、ハイ。初級なのに。
…違うんです、これ本当に難しいんです…。少しでも出力がぶれると術式君が壊れて撃てなくなるし、少しでも流す場所をミスるとまた術式君が壊れて撃てなくなるし…。そもそも術式が複雑すぎて、それを覚えるのに一か月かかったし…。
あぁ、説明し忘れてたから一応しておくと、術式っていうのは言うなれば魔法陣みたいな感じだ。他の色の魔法は「あ、初級なんですね」って感じの大きさと簡単さなんだけど、黒は大きいし構造が複雑だしで、そもそも構築するのが難しい。
俺が目指す裏ボスはこんなの無意識でも撃てるぞ…。っていうか絶級でも無意識で撃ってこそだと思ってる。だからこそ、現実の辛さに直面して少し心が折れそうです。
まぁでも、五か月で無意識とまではいかなくても、ポポポポ〜ンと撃てるくらいには成長した。一度できても安定するまでは勿論練習だからね、本当に苦労した…。
しかし、初級でこの難しさだったからこそなのか、もう魔法にはかなり慣れた…と思う。自信は半々と言ったところ。
これならば、絶級魔法までは五か月もかからないと思う。なんせやること自体は変わらない訳なのだから。
魔法の次は応用編、つまりは黒を使ってなんでも出来るようにする練習、とかいうのが控えてるのだ。
こんな所で足止めを食らうわけにはいかんのだよ、分かるかね?ワトソン君。
ちなみに初級魔法が安定するようになった時、レイゼさんも俺と一緒にはしゃいでくれた。やだ、ウチのメイド…可愛すぎ…?
さぁ、初級の次は中、上、極!ファイト、俺。いざ、練習開始ぃ!
──────────
えー、皆さんの期待を裏切るように二か月で終わりました。ちゃんと絶級まで。
やはり初級でコツを掴んだという自信は正しかったのか、割とするする〜とこなせた。
最高難易度である絶級の黒魔法だが…。
あー、うん、ね…。強いて言うならば、練習用の神様お手製コロシアムだから良かったけど、外で使ってたらこの世の終わりみたいになる、とは言っておこう。
俺の加減次第ではあるし、ある程度自由は効く魔法なので、いざ使うとなっても流石に周りに被害を出さないように調整は出来るはず。……多分。
黒絶魔法を出せるようになった時、レイゼさんは俺を抱きしめてくれた。何かを達成したときに褒めてくれる人がいる俺は、今の時点でもう相当に幸せだと思う。
…まぁでも、それに甘えずに、俺は俺なりにもっと皆を幸せな結末へ導けるように強くなる。
勿論、自己満足でしかないと言われればそうなんだけどね。神様にも背中を押されてるんだ、止まらずに進んでいけよな~?
さぁさぁ、という訳で。魔法の扱いもマスターして、とうとうだ。この"黒"の真骨頂、何物にも染まらない、自由な色としての特性。
"扱い方次第でなんでも出来る"という特性。
これの扱い方、その練習となる。正直一番楽しみにしてた能力です、ふへへ。
一応もう一つ武器の創造という能力は貰っているが、こちらは本格的な練習はいらないくらいなので、黒の力と並行して、ついで感覚で練習している。
それでも相当な武器を創造出来ているので、上々だと思う。情報量の整理で結構体力は持っていかれるが、大量の武器を飛ばすことも、黒を使えば出来ると本さんは言っていた。目指せ某慢心王。流石にこの世界に杯は無いが。
もう操作はマスターしたので暴走する心配が無い。その為、黒の扱い方の練習は家の中でも出来る。
なので暇さえあれば体内の黒をイメージ通りの力として発現させる、という練習をしているのだが。
流石は黒の特性といった所か、本当にイメージ通りの扱いができる。赤魔法を再現しようとしても黒の炎が出てくるなど、他の色にはなれない等の制約はあるのだが…。これ、"色"が黒いだけで、"特性"は受け継いでいるのだ。なんならパワーアップしているまである。万能すぎるだろ、流石に。
例えば、上記の"赤魔法"の特性を受け継いで、黒の炎でも敵を焼ける…とかか。これあれだ、闇の炎に抱かれて消えろってリアルで言えるやつだ。ちょっと楽しみな自分がいる。
さて。そんなこんなで、普通に強すぎるし危険すぎるので、これは禁忌の色になるのも納得だなーなんて思っていたある時。
俺は、本には載っていなかった扱い方を思い付いた。まぁ、誰でも思い付くとは思うけど。
それが、武器創造を用いて創り出した武器に、黒でエンチャント出来るのではないか、という考え。
なにか、思い付いた属性の特性を受け継がせた"黒"を武器にエンチャント──付与ともいう。──をしたら、最強でかつ俺専用の武器を創り出せるのではないか、と。そう思い付いたのだ。
こうしちゃいられんと、俺はソファーから勢いよく立ち上がり、お気に入りの武器を創り出す。
俺が好きな武器、それはもちろん大鎌である。いいよね、大鎌。かっこよくて、ロマンがあるよね。でもどんな武器にもロマンはあるからね、喧嘩はしないで行こうね。
武器の好みは人それぞれである。
さて、創り出した大鎌に、俺は早速練習途中ではあるものの"炎"、"風"の特性を受け継がせた黒を付与するイメージをする。
力を使うときには自分の想いを込めると良い、と本は言っていたので、「目標の為にも、強くなりたい」と強く、強く想いながら付与をかけていく。
次第に大鎌から、黒い光という矛盾したようなものが発せられてくる。なんだ黒い光って。
その光?は段々と広がっていき、次第に部屋を飲み込む。黒いのに眩しいっ?!
それでも目を瞑りながら大鎌の許容量ギリギリまで力を送り込み、壊れる寸での所で力を付与するのを止める。
すると、光?が段々と小さくなっていき、部屋が元の様子に戻っていく。そうして力を付与するのを完全に止め、どんな出来になったかと目を開けた俺は、訳が分からない光景を目にすることになる。
その光景は───
「……うぇ?」
「……んー、眩しい……。…あ、ご主人…おはよう…?」
黒がメインカラーとなるゴスロリを着た幼女が、目の前にぺたんと座っている光景だった。
……うん、どゆこと?
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