迷ったようです?


宇宙船のナビゲーションエラーは、予期せぬ冒険の始まりだった。

緊急着陸した船外の光景に、インテ星人の調査員は息をのんだ。鼻をつく硫黄の匂いと、肌がヒリつくような熱波が船内に流れ込んでくる。赤黒い大地は時折小さく震え、遠くに見える巨大な火山は、まるで獣のようにゴウゴウと不気味な唸りを上げていた。

「記録にない座標…ありえないほどの高熱反応…ナビゲーションシステムの深刻なエラーです…?こんな環境…聞いたことがありませんが?」

調査員は額の汗を拭い、不安げに機器を操作しながら辺りを見回した。インテ星の静かで整然とした環境とは、あまりにも違う。


その時、突如として背後から雷鳴のような声が轟いた。


「おおお!!客人か!!!ようこそ、灼熱の星エクスへ!!」


振り返ると、そこには岩のような筋肉を持つ巨漢が立っていた。太陽のように燃える赤い髪、溶岩を思わせる瞳。地響きのような声で彼は言った。


「えっ?あ、あなたはどなたですか?」


調査員は思わず後ずさった。


「俺はエクス星の戦士!ゼルガだ!!お前は何者だ!」


「な、何者かと聞かれても…私はインテ星の調査員ですが?」


ゼルガは鋼のような腕を組み、ニカッと歯を見せて笑った。


「ふむ、お前は語尾に『?』をつけるんだな!」


「え?それが何か?」


「お前、もしかしてインテ星人か!なるほど、だからそんなに慎重なのか!!」


「慎重というか…あなたが勢いがありすぎるのでは?」


(理解不能だ…?勢いだけで押し通そうとするなんて。まず疑問点を洗い出し、データを収集し、可能性を分析するのが当然の手順なのに…。だが、この男の自信と迫力は一体…?)



「ハッハッハ!!エクス星人はみんな語尾に『!』をつける!!魂の叫びだ!!」


「魂の…叫び?」


「そうだ!!言葉は力!!俺たちは何をするにも全力なんだ!!だから、語尾には自然と『!』がつく!!」


「そ、そんな単純な理屈で星の文化が決まるものですか…?」


「お前らインテ星人は何でも疑問形で考えるんだろ!だから『?』がつく!!」


「それは…まあ、否定はしませんが?」


「考えるな!!感じろ!!」


「いや、だからそういうわけには…!」


「お前も今『!』つけたな!!」


「えっ?いや、違います!」


「ほらほら!!勢いがついてきたな!!」


インテ星人は思わず頭を抱えた。この星の住人とは、論理的な対話が不可能かもしれない…?



「迷い人か!よし!やることは1つ!宴だ!!!」

「とりあえず名物!火山バーベキューやるぞ!!」


ゼルガの掛け声に、岩陰や洞穴から、同じように筋肉質で燃えるような髪を持つ住民たちが次々と姿を現し、一斉に動き出した。耳を塞ぎたくなるほど全員の声が大きい。そして、勢いがすごい。彼らの家らしきものは、溶岩が固まったような、ごつごつした岩の塊に見えた。


「宴ですか?というか、火山バーベキューとは一体何ですか?」


「火口に肉をぶち込む!!爆発したら焼けて出てくる!!美味いぞ!!」


ゼルガが叫ぶと、他のエクス星人たちが巨大な肉塊を、こともなげに火山の火口へ放り投げ始めた。数秒後、ゴオオオッという轟音と共に、火口から火柱と黒い物体がいくつも夜空に噴き上がった。熱風と灰が降り注ぐ中、インテ星人は思わずしゃがみ込んだ。


「ひぃっ!?危険ではないですか?非衛生的すぎませんか?インテ星の基準では…!」

地面に落ちた肉塊は、表面が炭のように黒いが、割れ目からは肉汁が滴り、香ばしい匂いが立ち上る。


「食え!!遠慮は無用だ!!」


ゼルガが熱々の肉を、まるで熟した果実をもぐように素手で掴み取り、インテ星人に突き出した。


「け、結構ですが…? その…摂取する前に、栄養成分や消化の可否について、分析が必要なのではありませんか…?」


しかし、有無を言わさぬ勢いで口に押し込まれる。…熱い?硬い?…いや、噛むと意外に柔らかく、凝縮された旨味とワイルドな風味が口の中に広がった。

「…!?(…美味しい…かもしれません…?)」



宴は夜通し続いた。エクス星人たちはただ大声で語り、笑い、肉を食らう。なんと非生産的な…だが、この解放感は何だろう…?インテ星の静かで整然とした日々では、決して味わえない感覚かもしれない…?

最初は遠巻きに見ていただけの調査員だったが、いつの間にか、エクス星人の馬鹿でかい声援に合わせて手を叩き、わけもわからず一緒に鬨の声を上げている自分に気づいた。

「お、重いですね、この肉は…!」肉運びを手伝っている。

「ハッハッハ!力がついてきたな、インテ星人!!」ゼルガが背中を叩く。痛い!

…いつの間にか、自分の声も少し大きくなっているような…?語尾に『!』がつきかけているような…?

「(い、いかん!これは彼らの文化に感化されているだけだ…!私はあくまで客観的な調査を…!)」

そう思いながらも、腹の底から笑っている自分がいた。



「お前との宴、楽しかったぞ!!」


翌日、エクス星人たちの(なぜか妙に手際の良い)協力で宇宙船の修理が完了し、インテ星人は帰還の準備を整えた。


「私も…まあ、その…非常に刺激的な体験でした…?」


「何かあったら、また来いよ!!もっとすごい宴を用意しておくぞ!!」


「ええっ!?いや、その、前向きに検討します…!」


ゼルガをはじめ、エクス星の住民たちが、昨日と同じように大声で手を振って見送っている。困惑しながらも、インテ星人は操縦席で最後にひとこと呟いた。


「この経験は…レポートの結論をどう書けば…!いや、しかし…悪くなかったかもしれません!本当に!」


最後の「!」は、自分でも無意識だった。そして、ほんの少しだけ口角が上がっていることに、彼はまだ気づいていなかった。インテ星へと向かう宇宙船は、いつもより少しだけ、勢いよく発進した気がした。

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