第8話、召喚の目的

 ゴブリンとの戦闘があった翌日、勇者たちには完全休養が言い渡された。

 俺は元々療養中だったはずだが、今回の件で完全にそれは解かれるだろう。

 休養日といっても特にやることはないから、いつものようにゆっくりとした時間を満喫する。そこに初めての訪問者があった。


「勇者殿、今日は俺も非番でな。もし良ければ、一杯どうだ?」

「まさか酒か? そいつはありがてえ!」


 療養中は酒を禁止されていたこともあって、飲むのは久しぶりだ。

 嬉しい申し出にテンションが上がる。まだ日の高いうちから飲む酒は最高だ。


「ほう、刑死者の勇者殿はいける口か。他の勇者殿はほとんどが飲めんと言っていたからな。数人ほど一緒に飲んだ勇者殿は、どうにも飲み慣れていなかったようで体調を崩してしまったのだ。あれは悪いことをした」

「あいつらは元の世界じゃ、まだ子供の年だからな。ワルでもなけりゃ、酒はそんなに飲めんだろうさ。飲めたところで、あんたほど強くはないだろうしな」

「そうなのか。子供か、どうりで図体の割には幼い感じがするわけだな」


 世界が違えば常識も違う。それは仕方あるまいよ。

 注がれたグラスに口をつけると、思わず声が漏れた。


「……ああ、うめえな」


 独特な香りがしたが悪くはない。それに痺れるような味を残しながら、体に染み込んでいく感覚がたまらん。

 度数の高いウィスキーのような酒で、割るものもなかったが、二人で舐めるように少しずつ減らしていく。


 副団長はすでに他の勇者から俺たちの世界のことを事細かに聞いていたらしいが、改めて俺の口からも聞きたがった。

 ついうっかり、自分の悲惨な人生を語りそうなるのを懸命にこらえて、一応は大人目線での世界を語ったつもりだ。まともに勉強した高校生より、サボりまくった俺は大したことは知らないだろうがな。


 俺も役人と話した際にあれこれ聞かれたが、こうして砕けた雰囲気で話すのは初めてのことだ。

 こっちからも色々なことを聞いて、お互いの世界の違いを確認していった。しかし所詮は酔っ払い同士の会話だ。覚えていないことも多いし、どうせしょうもない話がほとんどだろう。



 休養日が明けると、俺以外の勇者は遠征に出かけていく。

 なんでも前回の戦闘のあまりの体たらくに、報告を受けた騎士団長閣下が自ら勇者どもを率いて強化合宿を行うらしい。


 世界の命運を握る勇者が情けなくては、救われるものも救われない。

 また、救わない限り俺たち勇者は元の世界に帰れないらしい。

 どういう理屈か分からんし、証明する手段もない。そもそも召喚されたことからして意味不明なのだから、帰り方が意味不明なのも頷けるだろう。


 ただ、俺は全く信じていない。

 世界を救えば帰れるだって? ホントかよ、嘘くせえ。


 そもそも世界を救うとは、いったい何なのか。どうすれば世界を救ったことになるのか。

 意外なことに条件自体は明らかで単純だ。聞いた話が本当ならば。


 それは世界のどこかにいる、魔神を殺すこと。

 魔神を放置すれば世界に魔神の眷属が溢れ返り、世界はやがてそいつらに滅ぼされてしまうのだとか。

 正気を疑うような話だが、この世界の奴らは本気で信じている。


 いつ、その魔神が現れたのかは、大陸の南にある大神殿の巫女がお告げで語るらしい。それだけが根拠とか、俺からしてみればあり得ない話だが、どうやらそういうものらしいし、文句を言ってもどうにもならん。


 しかも厄介なことに、魔神は複数いるのだとか。具体的な数も分からなければ、それぞれがどこにいるのかさえ不明ときた。

 いくらなんでもハードルが高すぎやしないか。


 気になったこととして、世に蔓延る魔物はその魔神とやらとは直接的な関係はないらしい。

 魔神がいようがいなかろうが常に世界中にいて、素材として人間に益をもたらす面もある。


 魔物に魔神。面倒だし、とことんバカバカしいが、付き合うしかこの世界で生きていく術はないのだろう。

 ただ、こういうのは慣れの問題だとも思っている。今は突拍子もないことも、やがては普通になっていく。そういうものだ。


 とにかく、まずは目の前のことだ。

 若い奴らが合宿に行く中、俺だけが留守番なのは、他の勇者と同じ訓練を受ける意味がないからと聞いた。副団長がそう主張して、俺には別の訓練が課されるらしい。

 今のところは面倒と楽しみが半々だな。どうなることやら。

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