第2話、不安を抱える若き勇者たち【Others Side】
勇者や召喚、この世界についてひと通りの状況説明を受けた若者たちは、納得はできないまでも落ち着きを取り戻していました。
そして今は同郷の者だけで集まっています。
治療中の一人を除いた二十一人が一堂に会し、広い応接間では勇者同士の簡単な挨拶が行われていました。
集まった二十一人は全員が十代の若者であり、全員が見知らぬ間柄でした。
男女入り混じり、共通点は日本出身であることと若いことのみです。
若いといってもこの年代では大きな差があります。十代の前半と後半とでは、大人と子供ほども違いますし、わずかな年齢の差が顕著に現れる年頃です。
最も若い者で十三歳の中学生、年長者は十九歳の大学生で、この場にいる二十一人の内訳はほぼ高校生が占めました。
互いに簡単な自己紹介を終えたタイミングで、おしゃべりな者たちがめいめいに雑談を始めています。
「勇者は二十二人だって言ってたけどよ、あの死にかけの奴も人数に入ってるんだろ? あいつはどうなったんだ?」
「俺が知るかよ」
快活でスポーツをやっていそうな若者が誰ともなく話しかければ、見るからに不良の若者が不快そうに応じました。
「あ? お前に聞いてねえよ。知らねえなら黙っとけ。なあ、誰か知らねえか?」
「なんだと、てめえ! 誰に向かって口きいてんだ。ああっ!?」
売り言葉に買い言葉。気性の荒い若者たちです。
悄然とした若者もいることから、それに比べれば彼らは元気があるだけ良いのかもしれません。
そんな荒っぽい彼らとて心細いからこそ、この場に出席しているはずなのですが。そう考えれば可愛げはあるようです。
「ちょっと待ってくれ! 気に入らなくても僕らは仲間なんだ。仲良くしろとまでは言わないが、争うのはやめてくれ」
「なんだよ、うっせーな」
「偉そうにすんじゃねえ、ボケ。少しくらい年上だからって、舐めたマネしてっとブチ殺すぞ」
年長者の大学生が仲裁に入りましたが、上手くいっているとはお世辞にもいえません。特に不良の若者の言葉遣いは最悪極まります。
「あなたたち、いい加減にしなさい。いつまでも、つまらないことをグチグチと。みっともないわよ」
荒れている男子に物怖じせず発言したのは、いかにも高飛車なお嬢様然とした女子高生です。
もちろん彼女の言葉に黙っていないスポーツ少年と不良でしたが、くだらない言い争いにうんざりしているのはその他全員の総意です。
大学生の男も呆れたのか、彼らを無視して話を進めました。
「僕が聞いたところによれば、あの怪我人は無事に回復しつつあるらしい。それから、具体的な年齢は分からないけど、僕らよりもかなり年上だって話だ」
「かなり年上だ? けっ、唯一の大人があれじゃ頼りにならねえな」
「あの人さ、なんで死にかけてたわけ? ヤバイ人なんじゃないの? どう見ても普通じゃなかったよね?」
スポーツ少年の辛辣な感想を無視して、ギャルっぽい女子高生が疑わしげに指摘します。
「事故じゃないか? やろうと思っても人間をあんな風にはできないだろ」
「人のことより、まずは自分たちのことじゃないですかね。まだ自分が勇者だなんて信じられませんよ。なんなんですか、マンガですか」
オタクっぽい少年の嘆きはスルーされましたが、内心では誰もが思っていることでした。
事態が判明しなくても納得できなくても、不満を吐き出すだけで心に安定をもたらす効果は多少なりともあります。
見知らぬ者同士であっても、同郷であることに変わりはないのです。少なくとも異世界人よりは接しやすいはずです。
彼らの生産的とはとてもいえない、ただの愚痴と雑談は日暮れまで続けられました。
理解が追いつかず心が納得できなくても、若者たちの心情とは関係なく物事は進んでいきます。
勇者にはやるべきことがいくらでもあるのですから。
まずはなんといっても、勇者としての力を発揮できるようになることです。
何の準備もなしに、いきなり強大な勇者の力は扱えません。何事にも練習が必要なのです。
彼らはまず、勇者として性能の上がった肉体に慣れることから訓練を始めなければなりません。
運動に苦手意識がある若者にとっては、決して楽なものではないでしょう。騎士団が指導する本格的な訓練をやらなければならないのです。
さらには勇者と呼ばれるに相応しい様々な超常的な特殊な能力も備わっていますが、それを使いこなすためにも訓練が大事になります。
勇者が持つ特殊能力は、説明なしに使うことはとても難しいのです。説明がなければ、そもそも持っている能力の存在にすらなかなか気づけないものなのですから。
彼らがさらなる力を自覚し、発揮するのはまだまだ先の話です。
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