勇者からの贈り物

第33話 十の贈り物

 1000年以上生きた魔法使いとは……一体誰の事なのだろうか。すぐに思いつかなかった私は、皇国の神話や魔法史の教科書を思い出しつつ該当する人物……人間族の魔法使いがいなかったのか……一生懸命思い出してみたんだけど……わからなかった。

 だってさ。基本的に皇国は竜神族の国だから、神話に残るお話のほとんどは竜神族なの。それに、魔法使いは妖人族や魔人族に多いと思うんだけど、それでも1000年以上生きたような人物はいない。


 まあ、私が神話や歴史に精通している訳じゃないんだけどね。


「ティナ。これを見ろ。魔法石が嵌め込まれた魔法使い用の短剣だ」

「うわあ。これ、高級品じゃないの? 私には似合わないよ。それに、無くしちゃったら大変だし」

「こっちは神獣の骨を加工した錫杖だ。この大きなサファイアを見ろよ」

「ああ、そうだね。綺麗だね」

「このローブは……金糸の刺しゅうが見事だ。こっちは……」


 姫の物色は続く。私には王族や貴族の豪華絢爛な装飾品にしか見えないんだけど、姫は宝石の種類とか装飾の名前とかちゃんとわかっていて具体的に説明してくれるんだ。


 その、人食い箱のような大きい宝箱には十の装飾品が入っていた。


①魔法使いの短剣……攻撃魔法を増幅する

②神獣の錫杖……回復魔法を増幅する

③魔法使いのローブ……魔法防御を高める

④魔法石の髪飾り……物理防御を高める

⑤短針銃……猛毒の針を撃つ銃

⑥竜神の箱庭……一時的な空間断層を作る

⑦太陽の指輪……宇宙と一体化する指輪

⑧身代わりの人形……呪いの魔法を無効化する

⑨幻獣の腕輪……精神操作魔法を増幅する

⑩女神の首飾り……魔法力を回復する


 まあ、よくわかんないんだけど、非常に価値がある魔法道具で、同時にめちゃ高価な装飾品なんだろうね。こういうのって、大ラグナリア皇国博物館か、お隣のグラスダース王立美術館にでも展示すべきものじゃないのかな??


「ティナ。君は皇国随一の誉れ高いリーネ・サルマンに認められた魔法使いなのだ。つまり、これらの装備品は君が所有してこそ価値がある」

「うーん。でも、私はまだ中学生だからこんな宝石がいっぱいついてる高価なものを身に着けるわけにはいかないし、家に仕舞っておくとしても普通の庶民の家だから泥棒とか心配だし……」


 そりゃそうだ。我が家にこんな宝石を仕舞っておく場所なんかない。盗賊さんに狙われたらお終いだ。


「それなら私から提案したいのだが?」


 唐突だけどリーネさんからの提案だ。


「これらの装備品はティーナ・シルヴェンに受け取ってもらうよ。ただし、彼女が成人して大魔法使いとして自立するまではミリア公爵家で預かるというのはどうかね? ウルファ・ラール・ミリア嬢」


 リーネさんの提案に姫は深く頷いた。


「ティナが良ければ我が公爵家で預かります」

「うむ。これで良いな? ティーナ・シルヴェン」

「はい……」


 納得している訳じゃないけど、ここは姫に任せるしかないと思う。


「だたし、一つだけ君に身につけて欲しい装備があるんだ」

「え?」


 宝石がキラキラした装備品は遠慮したい。見た目が地味なのって毒針銃と気味の悪い人形しかないんだけど。


「心配するな。ほら、これなら構わないだろう。宝石ではなく太陽の紋章が刻まれているだけの質素な指輪だ」

「これだな」


 姫がその指輪を取り出して見せてくれた。それ、黄金の指輪です。全然質素じゃありません。


「私は左手の親指にはめていたのだが、君なら薬指にちょうどいいのではないかね?」

「ほら、ティナ。つけてみろよ」


 私は返事ができなかった。でも、ウルファ姫は私の左手を取って、薬指にその指輪をはめてくれた。その瞬間、指輪の紋章……赤い円とその周囲にある八つの小さな楕円……がぼんやりと輝き始めた。


 そして、私の視界は急に真っ暗になった。


 気が付くと、私は星空の中で立っていた。周囲は暗い空間だけど、そこら中に星々が輝いていた。いつも見ている冷たい星空よりも、明るくて優しくて暖かい星の光に包まれていた。


 その中のひときわ明るい星が私の方に近づいてきた。急接近だ。眩しくて何も見えなくなったのだけど、でもこの光は凄く安心する光だ。


 暖かくて安らいでいて、とても優しい。

 そしてその光の中でウルファ姫が笑っていた。


 私は思わず姫に抱き付いてしまった。

 小さくて華奢で、色白で金色のくせ毛が可愛い姫。私の胸の中でもごもごと何か言ってるんだけど、もうどうでも良かった。この輝く光の海の中で姫と抱き合ってる事が何よりも幸せだった。


「ティナ。ティナ」

「ティーナ・シルヴェン。目を覚ませ」


 え?

 誰?

 ここは何処?


 目を開くと目の前にウルファ姫がいた。その隣にはリーネさんも。


「どうやら宇宙が見えたようだな」

「はい。見えたというか、宇宙の中にいました。そしてそこで、大好きな人と出会えました」

「それは良かった。君は太陽の指輪を継承するに相応しいと証明されたのだよ」


 どうなのかな?

 そうなのかな?

 

 だったらめちゃ嬉しい!

 それに、姫との関係も認めてもらえた気がするし、姫自身もその気になってる気がするし、いいことづくめじゃん!


「エール・アルク。もうわかっただろう。君は太陽の指輪をはめても何も起きなかった」

「その通りです」

「この二人は本物だ」

「異論はありません」


 先ほどまで険しい視線を送って来ていたエールさんの表情も穏やかになっていた。それもこの指輪がもたらした奇跡なのだと思った。

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