10てふてふ🦋わたしは女の子が憧れるお姫様?

「おつかれさま!

二人ともありがとうな!」

「どういたしまして」

「うにゃ〜」


そろそろ夕陽が沈むころ。

畑を見渡せばそこそこの広さに植え付けを終わらすことができたと思う。


「腰が痛ーい。

まだいっぱい種芋が残ってるから明日もがんばらないとだね」


籠に残った種芋を見るとまだまだあるし、倉庫にもたくさんあった。


「シル様、お体もみもみほぐしますにゃん♪」

「チャチャにもするよ♪」

「うにゃ!?」


「あたしも!

種芋はこれでも少ないんだよ。

ほんとはもっといっぱいあるもんなんだけど前回に収穫できた量が少なかったからさ。

売る分と納める分を多めにすると種芋にする分を残せないんだよ」


「食べる分は?」

「小さいのや出来の悪いやつだけ食うの。

売り物にならないやつな。

豊作ならいいのも食べるけどさ」

「そっかあ。

明日にでも収穫できるようにいっぱい実るといいのにね?」


「明日ってすごい気が早くない?

どんな魔法だよ?」

「そんな魔法があったらいいね。

とりあえずお願いしておくよ!」


「お願いってなんだよ?」


「小さいころはお花によくお願いしてたんだ。

まあ、見ててね。

わたしのお願い聞いてくれる?

かわいいかわいいポデドさん。

いっぱい食べれるように山ほど実ってください」


いっぱい植え付けた畝の前に屈んで手を組んだ両手をおでこに当てて目をつむる。

ルイが隣で見守ってくれていた思い出がとっても懐かしい。


穏やかな夕陽と風の優しい囁きが聞こえてくるよう。

だけど土の囁きがあまり感じられない。

なんでだろう?

土の栄養が足りない?

そういえば落ち葉の山にいたミミズさんは少なかった。

ていうことは微生物も少ない?

なんだっけ?

生態系?

土は循環サイクルの一番の主役。

一番は言い過ぎかな?

でもとっても大事な存在。


「かわいい、かわいいミミズさん。

そして目に見えない小さな小さな虫さんたち。

わたしのお願い聞いてくれる?

みんな元気にがんばってください。

とっても栄養たっぷりな土を作ってください」


「シル様のそのお姿がとっても懐かしいくらいにお久しぶりですのにゃ」


チャチャのにっこり笑顔が夕陽に照らされてかわいい。

そうだよね。

こんなことをするのはルイと一緒に王宮庭園でいたあの時が最後だったかも。

わたし自身、王妃教育に疲れていてずっと忘れていた。


「なんだそれ?

神様や聖女様じゃなくてミミズや虫にお祈りするの?

ミミズが土を作るなんておかしいだろ。

変なの。

でも気持ちだけでもうれしいよ。

ありがとな!」


たしかにそうだよね?

でもそんなことを夢の女の子は勉強していた気がする。

もっといろんなことを思い出せたらいいのに。

そしたらきっとすごいことができそうな気がする。


「そろそろ夕飯の用意をするから戻ろう。

おもてなしするって言ったのに畑を手伝ってくれてありがとうな!」

「どういたしまして。

夕食作りも手伝うよ」


「手伝うほどのことはないって」


ため息をつきながら片付けを始めるアンナを手伝う。

ゆっくり回る水車を眺めながら土で汚れた手足を水路で洗い終えて家に戻った。





「大麦と根菜のおかゆ?

刻んで煮るだけ?

味付けは塩と香辛料にハーブね」

「な。手伝うほどじゃないって言ったろ」

「あっという間ですにゃ」


「そりゃお城の王様やお貴族様みたいにゃいかないさ。

これでもうちはまだ良かった方なんだけど、さすがにキツくなってさ。

ほら。大麦の量もこんなに少ないだろ?

だけどさ。

今日はうさぎ肉の燻製を奮発だ!

助けてもらったお礼だよ!」


テーブルで座って待ってるおじいさんがなにかを言いたそうだけどじっと座って待ってる。

わたしたちが畑仕事をしている間は、森に狩猟罠を仕掛けに行っていたらしい。


不作や不猟が続くいま、アンナとおじいさんにとっては豪勢な食事なのかな?

お祈りをする二人にならってから四人で夕飯をいただいた。

精霊様はお祈りを聞いてくれているのかなあ?


王宮で食べていたものに比べるともちろん質素。

おかゆはシンプルだけどハーブと香辛料を使っていることもあってそれなりにおいしかった……

と、言いたいところだけどやっぱり味は数段落ちる。

うさぎ肉の燻製は食べ慣れてはいないけど、なにげにおいしかった。




「食事の前にお祈りしてたのは精霊様に?

それとも聖女様?」


オリーブルオイルの小さな灯りをチェストに置いて三人でベッドに寝転がる。

アンナの寝室で一緒に寝ることにした。

王宮のベッドに比べればとてもとても狭いけど女の子二人にくっついているのはなんだか楽しい。


「ええと、精霊様? 女神様と聖女様だろ?」


あれ?

そうだ。夢の中で見たことを思い出した。

この国の民は精霊様の存在をあまり知らないんだった。

女神様と同一視されて、いつの間にか精霊様が忘れられちゃったんだよね?

王侯貴族でさえそうだったと思う。

王宮庭園にも精霊様の女神像を祀っているけど、みんな女神様としか見ていない。

王妃教育の中でも精霊様の存在はなくて女神様としての宗教観が強かった。

聖女様であるソフィアちゃんとちらっと話したこともあるけど、女神様の恩恵で癒しの力を行使してると考えてた。

本来、精霊様はこの世界にとってかけがえのない存在だったと夢の中の小説で見た気がする。


「お祈りしたって悪くなるばっかりだけどな。

あーあー。お城にいる聖女様が早くあれこれ良くしてくれないかなあ」


アンナが不満そうにバタバタと手足を動かすもんだから窮屈。

ベッドが軋むし狭いけど楽しい。


「そういえば聖女様って中等部の頃からいたんでしょ?

聖女らしい活動はしてなかったのかな?」


「はいですにゃ。

にゃんでも聖女様のお力が発現しているものの、まだお力が弱く本格的な活動をされるまで修行をされているそうですにゃ。

イチャコラ王太子殿下の元でですにゃ!」


「ふーん。そうなんだ。

わたしはルイのことをなんとも思ってないからそんなに怒らないでもいいんだよチャチャ?」

「それもそうですにゃ!

ですが、おにゃかはたちますのにゃ!」


「そっか!

シルは王子様の婚約者だったんだな!

王妃様になるかもしれなかったのにもったいないなあ!

王子様ってかっこいいの!?

やっぱり白馬に乗ってたりするの!?

いいなあお姫様!」


がばっと体を起こして目をキラキラに輝かせてる。

なるほど女の子の憧れだよね?


「えーとー。

そうだね? ルイジュード王子はたしかにカッコよかったよ?

白馬にも乗ってたかも?」


乗馬訓練では栗毛の馬が多かったけど。


「なんでそんなに興味なさそうに言うんだ?」


「だってわたしのことを憎々しげな顔で殺せ!って言うんだもん。

かっこいいとか言う前に怖い。

どんなイケメンでもそんな相手は願い下げだよ」

「それにデレデレ顔は気持ち悪いのですにゃ!」


「……二人が言うと王子様のイメージ最悪だな。

さすが悪魔令嬢って噂になるくらいだな」


「まあねー。

それに王妃様になるのがもったいないなんてことないよ?

王妃教育は死ぬほど大変だったし。

もしも王妃になってたら毎日が地獄だったと思う」


「王妃が地獄ってどんな!?」

「いろいろあるんだよ。

夢を壊しちゃうようなこと言ってごめんね?」

「まあいいけどさ。

偉くても偉くなくても大変なのは変わんないのかな?」


「それより好きな幼馴染のことを話してよ!」

「え? え!? でもあの!?」

「聞きたいなあ♪」

「そ、そんな顔して!

うん……それじゃあ……

あのね! あたしさあ!」


嬉しそうに話すアンナの恋バナが長いこと長いこと。

だいぶ盛り上がってずいぶん話し込んじゃった。

チャチャもわたしもそんな恋に落ちるようなことはなかったから素直に興味津々で楽しかった。

話し疲れたアンナと聞き疲れたチャチャが寝たところで灯りを消して眠りについた。

これがガールズトークってやつか。

いいねえ♪

夢の中の女の子が憧れていたっけ。


夢を見た。

たくさんのミミズが喜んで土の中ではしゃぐ夢を。

なんだかいろんなことをわたしに要求してくる。





「おおい!

アンナ! アンナ起きろ!

畑が大変だ!

起きろーーー!」


どんどんどんと木の扉を叩く音。


「ううん。

なんだよ朝っぱらから。

じいちゃん、どうかしたのか?」


起き上がってぼりぼりと頭をかくアンナに続いてわたしも起き上がる。

チャチャは侍女だけあって、わたしたちより早く起きていて待ってくれていた。


「いいから部屋から出てこい!

勝手に入るとお前、怒るだろ!」


「はいはい。分かったよ。

二人も行くよな?」

「うん」

「はいですにゃ」


ちょうど朝陽が畑に光を降り注ぎ始めるころ。

昨日、ポデドの種芋を植え付けた畑の前に足を運んで驚いた。


「な、ななななな! なんだこれーーー!?」

「うわあ。すごーーーい!」

「うにゃーーー!」


見渡せば実りが少なく荒れた広大な土地に朝焼けの光景が目に痛い。

だけどそれとは正反対に茂る葉っぱがぐんぐんわさわさと伸びる光景。

そう。いままさに葉っぱがどんどん増えていってる。


「この葉っぱって、あれだよね?」

「あれだ! あれ! あれに決まってるよな!?」

「ポデドですにゃ?」

「そう! それだよ!

どんだけ伸びるんだ!?」


「アンナ! 葉っぱが黄色くなってるやつを一本引き抜いてみろ!」

「え? まさか……やってみる!」


おじいさんの提案に素直に応じるアンナ。

葉や茎がしっかり黄色くなっているものを選んで思い切りよく引き抜くとはずみで地面に転がった。

手には……


「こ、こんなにいっぱい!」

「信じらんねぇ……」


アンナもおじいさんも鈴なりに実る立派なポデドを呆然と見つめてる。

葉や茎がしっかり黄色くなっている状態は収穫できる頃合いのサイン。

とっても不思議なことがあるもんだなあとしみじみ思った。

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