第二十七章:門の開通実験(00)

 祭りの熱が残る翌日。

 湖光亭の中には、少しだけ張り詰めた空気が漂っていた。

「……ついに、今日なんだね」

 陽がつぶやくと、想は深くうなずいた。

「はい。湖底遺跡の魔法陣、修復が完了しました。“門”としての機能が本当にあるかどうか、これから確かめます」

 王都から派遣された魔術技師と、宏美・友里が解析してきた古文書の照合により、遺跡に刻まれた螺旋文様は“転移陣”であることがほぼ確定していた。

「でも、本当に“通れる”のかな……行ったきりにならない保証は?」

「ないです」

 想の返答は率直だった。

「でも、確かめなければならない。“今いるこの世界”と、“帰れるかもしれない元の世界”を繋ぐ手段がここにあるなら、無視することはできない」

 そんな中、実験の“第一歩”を申し出たのが、コナーだった。

「なら、俺が行こう。元々、俺はリスクを取るのが性分だしな」

 そう言って笑った彼の顔は、どこかすがすがしかった。

「……怖くないの?」

 チェルシーの問いに、コナーは肩をすくめた。

「怖くないわけないさ。でも、誰かが先に足を踏み出さなきゃ、誰も次に進めない。だったら、俺が踏み出す」

 門の起動準備は、陽と宏美の手によって進められていた。

 中央の文様に魔力を満たし、周囲に結界を張り、安全領域を確保する。

 やがて、湖底の遺跡に再びあの螺旋の光が灯った。

「門、動いてる……!」

 宏美の声が震えた。

 湖の底――という静寂の中で、青白く光る輪が空間に浮かび上がる。

 それはまさしく、想がかつて東京で目にした“転移の門”と同じ形だった。

 コナーは防水仕様の装備を整え、想の前に立つ。

「……何か、伝えておくことはあるか?」

 想は少し考えて、言った。

「もしそっちに何もなかったら、帰ってきてください。“ここにあなたの席があります”って、みんなで言いますから」

「……言葉にできないくらい嬉しいな、それ。よし、行ってくる」

 そして――

 コナーは、迷いなく光の門に飛び込んだ。

 青い光が彼の姿を包み、消える。

 遺跡に再び静寂が戻る。

 誰もが息をのんだ。

 一秒、二秒、三秒――

「っ……」

 音を立てて門が再びきらめき、光が逆流するように走った。

 次の瞬間――

「……ただいま」

 コナーが、笑って立っていた。

(→01へつづく)

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