第二十六章:湖光祭当日(01)

 夜。

 湖畔の空に、無数の提灯が灯り、風に揺れるその光はまるで星の川のようだった。

 祭の広場では舞と音楽の披露が続き、人々は思い思いに酒を酌み交わし、笑い合っていた。

 想と陽は、舞台横の一角に腰を下ろしていた。

 調理ショーは大成功。客足も想像以上で、厨房の皆は今ごろ“戦いのあとの片付け”に勤しんでいる。

「……なんだか、夢みたいですね」

 想がぽつりとつぶやくと、陽は膝の上で手を合わせ、しみじみと言った。

「たくさんの人が、“ここに来てよかった”って言ってくれてる。それが、すごく嬉しい」

「きっとそれは、陽さんがずっと、村のこと、人のこと、丁寧に見てきたからですよ」

「……違うよ。今はもう、私だけじゃない。“湖光亭のみんな”がいるから、こうなったんだと思う」

 その言葉に、想は目を細めた。

 ――その時だった。

「おーい、想! 陽! こっち、こっちー!」

 康生の大声が響き、想たちは振り返る。

 広場中央には、樽から直接酌まれた特製の蜂蜜酒が振る舞われており、村長の掛け声とともに“祝杯”の輪が広がっていた。

「本年の湖光祭、ここに大成功と宣言するー! そして、今年は特別なことがひとつ――」

 村長が観衆を見回し、声を張る。

「湖光亭の若者ふたりが、“共に歩む”と決めたそうだ! みんな、祝ってやってくれ!」

 一瞬の静寂のあと、湧き起こる拍手と歓声。

「おーっ!」「おめでとうー!」

「こりゃ、ふたりとも美味い酒、もう一杯だな!」

 陽は驚いて目を見開き、想は頬をかきながら照れ笑いを浮かべた。

「……やっぱり、みんな見てたんですね」

「うん。でも、不思議と、恥ずかしくない。むしろ、ちょっと……誇らしいかも」

 その手が、そっと、また想の手を握った。

「これから、どんなことがあっても、ちゃんと相談して、ちゃんと笑い合っていけたらいいな」

「はい。俺たちはきっと、それができると思います」

 空を見上げると、桜の枝の隙間から、星がまたたいていた。

 誰かと暮らすこと。

 すれ違いながらも、歩み寄り、許し合い、認め合うこと。

 湖光亭は、ただの宿ではなく、“そういう関係が根づいていく場所”になっていた。

(→End)

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