第1章:森の底の飢え

薄暗い森の奥、朽ちかけた巨木の下で、リオは身を縮めていた。雨は止んだばかりで、湿った土の匂いが鼻につく。空腹が胃をきりきりと締め付け、身体中が鉛のように重かった。8歳の魔族の子どもにとって、この世界はあまりにも過酷だ。


リオのような超下級魔族は、他の魔物たちからは「屑」と蔑まれ、存在すら認識されない。かつて、森で拾った小さな木の実を握りしめていた時、ひときわ大きな獣型の魔物が現れ、リオの目の前でそれを踏み潰し、嘲るように去っていった。その時、リオの幼い心に刻まれたのは、飢えと、誰にも守られない無力感だった。


集落を見つけても、力の強い魔物たちが縄張りを主張し、容赦なく追い出される。彼らにとって、リオのような存在はただの邪魔者でしかなかった。一度は、小川のほとりで見つけた魚の骨を拾い集めていた。ほんの少しの肉片でも、幼いリオにとってはご馳走だった。だが、そこに現れたのは、凶暴なゴブリンの群れだった。リオはすぐさま身を隠したが、ゴブリンたちはリオの存在に気づかないまま、汚れたブーツで魚の骨を粉々に踏み砕いていった。その無慈悲な足音を聞きながら、リオは声を殺して震え、自分の命はこんなにも軽んじられるのかと絶望した。


魔物の縄張りから逃れて、たどり着いた人間の集落でも同じだった。リオの姿を見るなり、恐怖に震え上がった村人たちは、容赦なく石を投げつけてきた。小さな身体にいくつも石が当たり、痛みに這いずりながら森の奥へと逃げ込んだ。身体に残る青痣と、心の奥底に刻まれた人間の冷たい視線は、リオに誰も信じてはいけないと教えた。


「飢え死にするのかな……」


諦めにも似た呟きが、乾いた喉から漏れた。魔族にとって、飢えは死に直結する。特にリオのような力の弱い存在は、一度倒れれば誰も助けてくれない。意識が遠のきかけたその時、微かな足音が近づいてきた。身構える力もなく、リオは目を閉じた。どうせ、また誰かに踏み潰されるだけだろう。

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