第20話 独占的な欲
「今日の体育はソフトバレーを行う。四人一組のチームを作ってくれ」
運動は苦手。
こういうチーム決めの時、いつも誰とも組めず人数が足りない所に入れてもらうことになる。
何? 私長所無さすぎない? 泣きたいんだけど。
「ほら、未希ちゃん、一人で佇んでないでこっちくる」
席子ちゃんが私を手招きしてくれる。
私みたいな運動音痴を嫌な顔せず誘ってくれている! 嬉しい! 泣きたいんだけど!
「委員長。おいでおいで~」
「ウエルカム委員長~!」
他のチームメイト達も笑顔で招き入れてくれる。
優しい世界。優しい世界やでここは。楽園かな?
「(氷室さんが入ってしまいましたわ。明確な穴が出来てしまいましたわね)」
んぐっ!?
そうだよね。一人くらいはこういう意見の人はいるよね。
でもこの程度ならまだ優しい方だ。中学の時は言葉の暴力酷かったからなぁ。
私はその子に近づいてしっかり目を見ながら挨拶をする。
「わ、私、精一杯やるからね。よろしくね花宮さん」
「え、ええ……」
花宮鈴音さん。
運動が出来て、良い所のお嬢様ということしか知らない。
この機に彼女のことを知ることができれば嬉しいな。
「氷室さん! レシーブ!!」
「へぶわっ!!」
飛んできたボールを両手首で受け止めることはできたけど跳ね返ったボールがオデコに当たってしまった。
そのままボールは自陣のコートに落ちてしまう。
「未希ちゃん! 大丈夫!?」
「う、うん。平気」
席子ちゃんが心配そうに駆け寄ってくれる。オデコ撫でてくれた。優しい。
「氷室さん。今の球くらいレシーブしてもらわないと困りますわ。前に返さなくてもいいからせめて上に飛ばしてちょうだい」
「ご、ごめんなさい。花宮さん」
花宮さんの言う通りだ。
私がこのチームの明確な穴になりつつある。
今度はせめて上にボールを飛ばせるようにしよう。
「(委員長やっば~。見た目通り運動音痴って感じだ。フォローしてあげないと危ないな)」
「(委員長もヤバいけど花宮さんもちょっとヤバいかも。言い方きっつ~)」
今はまだ皆の心の声は優しいけど、このまま足手まといになってしまうとチームの皆もきっと私を糾弾するだろう。
頑張らないと!
「(未希ちゃんいつも奇声やばいな。「へぶわっ!」ってなに? 相変わらず面白いなこの子)」
そして相変わらず私を見て面白がっている席子ちゃん。
うん。席子ちゃんがなんかいつも通りで安心した。その能天気さが今は救いだよ。
「——いっけぇ! 広井!!」
体育館コートの奥の方では男子がバスケットボールの試合を行っていた。
一部の女子が黄色い声援を送っている。
その声援の先には広井君の姿があった。
佐藤くん(本名山下君)からパスを受け取った広井君がドリブルで相手のコートに切り込んでいく。
目にもとまらぬ速さ、鋭いドライブ、相手ディフェンスにぶつかってももろともしないフィジカル。
全ての能力が圧倒的に高く、あっという間に広井君は全員を抜き去り、鮮やかにシュートを決めていた。
「(すごいっ!)」
そういえば自己紹介の時、運動は得意と言っていた気がする。
ここまで圧倒的な運動神経を持っていたなんて……!
「きゃー! 広井くんすごーい!」
「えっ? 格好いいんだけど。アレ本当に広井? ギャップやば……」
男子の試合を観戦していた女の子達が声援を飛ばし、広井君は驚きの表情と共に軽く会釈する。
確かに格好良い。女の子達が声援を飛ばすのもわかる。お友達が体育で活躍してくれて私も嬉しい。
だけど私の心の中にモヤモヤした感情が渦巻いていた。
「(……あんまり格好良い姿を皆の前で見せないでほしいな)」
そんなことを思ってしまう自分にハッと驚かされる。
なんだ今のは。
友達の活躍に対して私は今とんでもなく失礼なことを思わなかったか?
——『皆の前で格好良い姿を見せないでほしい』
そんなの……私が広井君を独占したいみたいじゃないか。
まさか……そんな……でも……
「——へぶぼわん!!」
考え事に没頭していると、白いボールが私の顔面に強く命中した。
私の真上に飛んでいくバレーボール。
「氷室さん! 試合中ですわよ! ぼーっとしない!」
「ぎょ……ごめんにゃさ~い……」
涙目になりながら再び意識を試合に戻す。
しかし、女子の黄色い声援が耳に入ってくるたびに私の集中は大きく逸れていってしまうのであった。
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