『Echoes of Logos外伝 ― 火力信者、悟りの門前にて。―』

ちょいシン

第一話:火力信者、敗北を知る。

「なんだよ、これ……どうして、負けんだよ……!」


自室のモニターに表示された“Game Over”の赤文字が、剣持次郎けんもちじろう――通称ケンジの心にじくじくと突き刺さっていた。


口元を引き結びながら、彼は手元のマウスを力任せに握りしめた。反応しなくなったのは、数週間前に殴って壊したせいだ。


結局、買い替えたが、プレイヤーの中身が変わらなきゃ意味がないと、誰よりも彼が一番よくわかっていた。


「また回復間に合ってねぇし……あいつ、絶対チートだろ」


独り言が漏れる。


大学四年、卒論は手付かず、就活も適当。


バイト先のコンビニは深夜帯で、時給1,300円。睡眠時間を削って稼いだバイト代は、すべてゲームの課金に突っ込んでいた。

彼の人生の中心には、いつの間にか『Echoes of Logos』というゲームが鎮座していた。


火力特化、紙装甲。


通称「火力信者ビルド」。


彼が選んだのは、派手な一撃に全てを賭ける、脆さと背中合わせのスタイルだった。


「はぁ……」


ケンジは椅子にもたれながら、天井を見上げた。気がつけば、いつも一人になっていた。


最初は、大学の同級生と三人で始めたはずのゲームだった。


だけど——


「お前、またガチャ回したのかよ。やりすぎじゃね?」


「課金でドヤるのって、なんか違くね? ケンジ、昔はそんなじゃなかったろ?」


「は? そっちこそ、課金しないくせに文句だけ一丁前じゃん。どうせ無課金の嫉妬だろ」


そんなやり取りの末、LINEグループは自然消滅した。


「……俺が間違ってんのか?」


画面を閉じたケンジは、ふと天井に問いかけるようにつぶやいた。


そしてその夜——

ケンジは奇妙な夢を見る。


——静寂な回廊。和風建築。白砂と苔の敷かれた庭園。


その中心に、僧衣をまとったひとりの男が、月下に佇んでいた。


「貴殿、名を何と申すか?」


「……え? ケンジ……いや、本名は剣持次郎だけど」


「では、ケンジよ——」


その僧は、うっすらと笑みを浮かべて、静かに言った。


「汝の火は、いずれ“道”をも燃やし尽くす。だが、燃えた先にこそ、真の“力”があるやもしれぬ」


目を覚ますと、朝焼けの光が差し込んでいた。


(……なんだ、今の夢)


ベッドの隣。使い込まれたマウスの横に、小さな紙片が落ちていた。


そこには、こう書かれていた。


——「御所町・密行寺みつぎょうじ 仏道会談会:学生無料」——


ケンジはそれを手に取りながら、思った。


(行ってみるか……どうせ、暇だし)


それが、“火力信者”ケンジが、後の「脳内沙門」と出会う運命を歩み始めた最初の一歩だった。

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