第48話 戦友との決着

「馬鹿なことをしたな、フランツ。そうまでして、何を手に入れたかったんだ?」


 マルスが大剣を振るう。

 フランツが展開した自爆の結界が粉々に砕け散り、空間が歪むほどの圧力が消失した。

 結界が消えた後に残されたのは……大剣を手にしたマルスだけ。フランツは血塗れになって倒れている。


 決死の攻撃。己の命を燃やすような自爆技であったが……驚くべきことに、マルスに目立った傷は見られない。


「ノヴァ……」


 マルスがつぶやいて、服の胸元からペンダントを取り出す。

 それはかつてブリュイ子爵家への征伐の折、ノヴァからお守りとして受け取った物だった。

 ペンダントの石には大きなヒビが入っており、マルスの目の前で崩れて砂粒となる。


「使うなと言っておいたのに……まさか、俺のために力を使ってしまうなんて……」


 確信できる。

 今しがた粉々になったペンダントはノヴァが【創造】で生みだした宝具。『身代わり』の力が込められたマジックアイテムだったのだろう。

 マルスが無事でいるのはそのペンダントのおかげ。これがなければ、最低でも致命傷の怪我を負っていたに違いない。

【最強】の防御力を貫くほど、フランツの捨て身の攻撃は強力だった。


「そうか……ノヴァが……また使わせてしまった。いや、しかし……」


 渋面になるマルスであったが……反対に、胸を温もりが満たしていく。

 矛盾した感情だ。己の心を犠牲にして【創造】の権能を使ってしまったノヴァに対する怒りと無力感を抱くが、同時にノヴァがそこまで自分を想ってくれているのだと知って嬉しくなる。


「ノヴァにはお説教をしてやらないとな……それはともかくとして」


「……ウッ…………ア……」


「二対一だ。一騎討ちであったのならば、俺も無事では済まなかっただろう」


 フランツの方は重傷である。

 辛うじて……本当に紙一重で命はある。死んではいない。

 それでも、手足はひしゃげて複雑に折れ曲がっており、身体中から血が流れ出し、無事な部分が少しもなかった。


「ウ……ウウ……」


「……何故、泣く。フランツ」


 眼球が潰れて窪んだ眼窩から涙が流れ落ちている。

 倒れ、崩れ、潰れ、ボロ雑巾のようになったかつての戦友は泣いていた。

 そのあまりにも哀れな姿には、フランツを殺すことを決めていたはずのマルスでさえもトドメを刺すことを躊躇われた。


「お前に何があったのかは知らぬ……だが、魔女の復活などという誤った道を選ぶよりも先に話してほしかった。かつてのように酒を酌み交わし、言葉で語り合いたかった。お前が真に俺を友と思っていたのならば」


「……ア…………ウッ……」


「さらばだ。かつて戦友と信じた男よ……もう、お前と言葉を交わすことはないだろう」


 マルスは倒れているフランツを放置して、歩み出す。

 向かう先はフランツの後ろにある廃墟。この村の中では、唯一無事な建物だった。


「…………」


 マルスが扉を掴み、そのままブチリと引きはがした。

 ボロボロの扉を横に投げ捨てて、建物の内部に足を踏み入れる。


「ノヴァ……!」


「近づかないで!」


 マルスの姿を認めるや……『彼女』が叫んだ。

 廃屋の中にノヴァはいた。しかし、ノヴァは一人ではなかった。

 気絶しているのか目を閉じてグッタリとしたノヴァを、一人の女性が羽交い締めにして立っている。

『彼女』の手には小振りなナイフが握られており、切っ先がノヴァの首筋に向けられていた。


「近寄らないで、一歩でも来たらこの女を刺すわよ!」


「君は…………誰だ?」 


 マルスがつぶやく。

『彼女』には見覚えがあったが、それは「どこかで見たような?」という程度の印象である。

 屋敷のメイドだと言われたらそうかと思うし、カフェの店員だと言われたらそうかと思う。そんなありふれた容姿の少女だった。


「……やっぱり、私のことがわからないのね。マルス」


『彼女』が表情をクシャリと歪めた。

 怒りと憎しみ、絶望に染まった表情である。

 栗毛の髪が左右に揺れて、かけていたメガネが床に落ちた。


「私はアリア・クレプスキュール……貴方が仕えている聖女でしょう!?」


「…………!」


 聖女アリア・クレプスキュール。

 彼女の容姿が変わっていることは戦友からの手紙によって知らされていたが、改めて突きつけられたマルスが目を見開いた。

 そんなマルスを、アリアはキッと刺すような目で睨みつけていたのである。

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