【風雅ありす様自主企画用】みんなでリライトしよう♬

ムスカリウサギ

企画参加用作品『このは姫番外編・痣だらけの娘』

【作品タイトル】『このは姫番外編・痣だらけの娘』

【作者】ムスカリウサギ

【作品URL】https://kakuyomu.jp/works/16818622172714332100

【該当話直リンク】https://kakuyomu.jp/works/16818622176319515123/episodes/16818622176320072493

【作者コメント】本文2000文字。企画用に書き下ろし。

一応リンクは貼ってありますが、このは姫本編がわからなくても問題ないです。

むしろ分からない人がリライトしたらどうなるんだろうという興味の方が大きいので……。

本文の頭と末尾は、本編の定型文ですが、無くしちゃったり、改変してくださっても構いません。


==▼以下、本文。============


 ここではないどこか。

 高い山々に囲まれた山間に拓かれた街。

 の地を見下ろすように、そのお屋敷はそびえていた。


 お屋敷の主は、一見すると幼い少女。

 街の民は彼女をこう呼んだ。

 永き時の白き吸血姫、『このは姫フィユ・フィーユ』と。


――――――――――


「今よっ、シエル!」


 堅牢けんろうにして豪奢ごうしゃなるお屋敷の食堂で。

 無垢な純白のドレスをまとった少女が、声を上げる。


 彼女こそがこのは姫。

 このお屋敷の主にして、白の血筋を受け継ぐ純粋なる吸血の姫。


「畏まってございます、フィーユお嬢様……!」


 それに答えるのは、シワひとつないグレーのスーツをかっちりと着こなした老紳士。

 このは姫の忠実なる執事である吸血鬼。


 彼はその全身からゆらり、ゆらりと、虹色の魔力を放出しつつ、静かにその魔力を練り上げていく。


「嫌ーーッ!!」


 執事の視線の先で、穴に嵌った娘が身動みじろいだ。

 棒切れのように細い腕を振り回し、穴から抜け出そうとするも、それは叶わない。

 室内であるにも関わらず不自然に空けられた真ん丸な穴は、かかった獲物を逃がさない、空間魔法によるトラップであるからだ。


 やがてシエルがゆっくりと腕を動かすと、それに連なって虹色の魔力もまた渦を巻きはじめる。

 まるで小麦を粉引くように、老齢の吸血鬼は、手中におさめた膨大な虹色の魔を操り、構えた。

 

「悪く思わないでくだされ。お嬢様の命に背く訳には参りませんのでな……!」


 ひっ、とか細い声がこぼれ落ちるのも構わず、執事は腕を伸ばし。構えられたその腕から虹色が解き放たれんとした、その瞬間だった。


「待ちなさい、シエル」


 すん、と少女の声が響いた。

 その声に、忠実なる執事が振り返ったのを見て、フィーユは苦々しく言葉を続けた。


「その言い方だと、あたしが悪者みたいじゃない。訂正を求めるわ!」


 ぽんっと。

 気の抜けた音と共に、集まっていた虹色の魔力は霧散し、場を囲っていた魔の圧は失われた。


「おや、お嬢様。悪役はお嫌いですかな?」


 飄々ひょうひょうとした口調で、シエルはニヤリと笑う。


「そういう話じゃないわよ。主を悪者扱いするなって話で……」

「令嬢は悪役たるのが、最近のトレンドでございますぞ?」

「どこの世界の話をしてんのよ!」


 突然始まった口喧嘩に、穴に嵌っていた娘は、ぽかんと口を開けたまま、固まっていた。


「ふぅむ。悪役令嬢とその忠実なる下僕、というまさに絶好の組み合わせなのですが……」

「……ねぇ、その話、まだ続くの?」

「はっはっはっ、年寄りのトレンドは息が長いんですぞ。……まぁ歳をとると肺活量も落ちますので、実際の息は短くなるのですが」

「悲しい自虐やめろ」

 

 どうしたらいいんだろう。

 亜空間の落とし穴に足をとられている娘は、どうしていいかわからず、そのあざだらけの身体を震わせることしか出来なかった。


「はぁ……っ。まぁいいわ。なんかこの娘も落ち着いてくれたみたいだし」


 ばさり。

 フィーユは己の艶やかな白銀の髪をかきあげると、お屋敷に侵入した娘へと歩を進めた。

 びくり、娘の身体が強ばったが、白の少女がその赤い瞳を向けると、その一切の動きを停めることしか出来なくなる。


「シエル」

「はい、お嬢様」


 このは姫が背中越しに名を呼べば。

 呼ばれた執事はその真意を問うまでもなく虹色の魔力を解放すると。亜空間に通じた穴がひゅんと消え、娘の傷や痣はあっという間に癒されていく。


「え……、え……?!」


 娘は呆然としながらも、我が身に起こった出来事が理解出来ず、さっきとはまるで違う理由で、目を丸くしながら慌てふためいた。


「はい、じゃ、お茶にしましょ。貴女もいらっしゃい」

「え、あ、あの……」

お屋敷ウチに盗みに来るくらいだもの。食うに困って、止むを得ずってことでしょ?」


 まったくその通りだ。

 その通りなのだが、この白い少女が何を言っているのか娘には、貧民街で迫害され続けた娘には、何を言っているのかがまるで理解できなかった。


 ふと不安そうな娘の足元に、どこからか三毛猫がやってきて、こすりとその足にすり寄せた。


「あら、シャトー。貴女もお腹がすいたの?」

「にゃあ」

「そういえば今晩の賄いがまだでしたな」


 なんだ、この和やかな空間は。

 まるで訳が分からない。分からないのに。


「ほら、立ち止まってないで。行くわよ」

「おっと。食堂に行く前ですからな」


 このは姫が娘の手を取り強引に歩き出すと、執事もまた娘の反対の手を取って。

 ふわっと虹色の光を放つと、見る見る内に娘の着ていたボロボロの服は綺麗なドレスに変わり、髪は美しく結い上げられ、あっという間に美しく着飾られた。


「あら。流石ね、気が利くじゃない」

「執事ですから」


 まるで訳が分からないのに。

 心が、あったかくなって。


「ふぐ……うぅ〜〜……」

「あらら、泣いちゃった」

「泣いたら可愛いお顔が台無しですぞ」


 その柔らかなハンカチの感触にさえ、戸惑うことしか出来なかった。



 これは『このは姫フィユ・フィーユ』と呼ばれる真っ白なお嬢様と、彼女に仕える『虹色執事シエル・セルヴィッタール』の日常を描いた物語である。




•*¨*•.¸¸☆*・゚•*¨*•.¸¸☆*・゚•*¨*•.¸¸☆



恐れ多くも、有難くも、リライトして下さった皆様の作品です!

本当にありがとうございます!



発芽様

https://kakuyomu.jp/works/16818622176286613008/episodes/16818622176563198799

原作より気品の増したお嬢様が素敵です!


🐌三杉令様

https://kakuyomu.jp/works/16818622176276612913/episodes/16818622176660251179

癖だらけの原文と違って(笑)、とても綺麗なこのは姫です!


宇地流ゆう様

https://kakuyomu.jp/works/16818622176299087695/episodes/16818622176321482592

もうこれ、公式でいいんじゃないかな。


ぱぴぷぺこ様

https://kakuyomu.jp/works/16818622176299190992/episodes/16818622176832020956


描写がより厚みを帯びて、気品がぐぅっと上がったこのは姫です!

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