第20話 生徒会
アネットは生徒会に入るべく、生徒会室前に立っていた。ノックをしようとしているが緊張しているのか躊躇っている。そんな様子を見て、私はあることを思い出した。アネットに声をかける。
(アネット。ちょっといい?)
(は、はい。なんですか?)
(扉を開ける前に顔前に風魔法を発動させておいて。自分に何かとんできたときに、弾き飛ばせるように。)
(え?)
(いいから。念のためよ。)
(は・・・はい。)
アネットは魔力を集中させ、魔法を展開させる。魔法といっても顔の前に風を展開させているだけだが。それが終わると、彼女は意を決してドアをノックする。すると部屋の中から声が聞こえた。
「はい。開いているのでどうぞ。」
「し、失礼します!!」
反応があったのでアネットは恐る恐るドアを開けた。すると、彼女の顔に向けて何かが飛んでくる。だが事前に発動させていた風魔法によって弾かれた。
「え?」
「ほう!!」
アネットは何が起きたのかわからず、扉を開けた状態で固まっている。それに対し、部屋の中の人物が感嘆の声をあげていた。驚かないのは事情を知っていた私だけだ。
「あ、あの。」
「ああ。ごめんごめん。とりあえず入っておいで。」
「は・・・・はい。」
言われるがまま、アネットは恐る恐る生徒会室に入った。部屋の中には5人の人間がいた。そのうちの1番奥に座っている人が笑顔でこちらを手招きしている。アネットは部屋の入口の一番近い椅子に座る。手招きしていた男がアネットを見て楽しそうに話し出した。
「改めて生徒会にようこそ。私はケイネス・グレール。この学園で生徒会長を務めている。」
「アネット・セレナーデです。」
「セレナーデさん。ここに来たという事は生徒会に入りたいという事なのかな?」
「はい・・・。駄目でしょうか。」
「いいや。あの一撃を防げるのは優秀だよ。優秀な魔法使いはぜひ欲しい。」
「あの・・・。さっきの一撃って。何をしたんですか?」
「これさ。」
グレールは小さい紙を取り出し、それを丸めた。そしてそれを風魔法で宙に浮かべる。紙はふあふあと浮いている。
「これを風魔法でぶつけたのさ。別に危険はない。判断力、魔法の能力を測るちょっとした試験さ。ちゃんと防げたのはすごいよ。」
「いえ・・・。私は・・・友人に教えてもらったので事前に準備が出来たというか・・・。」
「ほう。情報を漏らした相手がいるのか。参考程度に誰から聞いても?」
「ええと・・・。」
アネットは言葉に詰まる。私から聞いたとは言えないのだから仕方がない。私もゲームの知識を知っていただけだ。この生徒会長はゲーム内でもいたずら好きで、ちょくちょく皆に試験と言って、いたずらをしかけてくるのだ。だからアネットに警告して事前に魔法を発動させていたのだ。
「まあいいや。それで?生徒会に入りたい理由を聞いてもいいかな?」
「それは・・・。」
「言いたくないのかな?」
(アネット?私が聞かないほうが良いのなら奥に行ってるけど?)
(いえ・・・。大丈夫です。聞いてください。)
アネットは、背筋を伸ばし、グレールをまっすぐ見て口を開いた。
「私は・・・弱いんです。特に精神的に・・・。大事な人達にいつも守っていられてばかりで。だから強くなりたいんです!!そのために生徒会に入って強くなりたいと思いました。」
「生徒会に入るのと、強くなるのとはイコールではないと思うんだけど?」
「はい。ですが、生徒会に入ると色々な人と関わることが多くなります。そこでトラブルを解決したり、皆と協力したりすることは精神的に強くなる第一歩だと思うんです。私は誰かに頼るばかりの存在ではなく、頼られるような存在になりたいんです!!そのために生徒会に入りたいと思いました。」
(アネット・・・。そんな事を考えていたなんて・・・。)
私はアネットが幸せになれればそれでいいと思っていた。露払いは私がすればいいと。だから何かあったら私に頼るようにと彼女の両親にもそう言っていたし、彼女自身にもそう言っていた。だが彼女にとって、それは負い目だったのだろう。彼女はいつか自分自身で困難に立ち向かえるようになりたいと思っていたのだ。彼女がそう思えるようになったことに思わず目頭が熱くなる。
(アネットも気づかないうちに成長しているのね。ちょっとだけアネットのご両親の気持ちがわかった気がするわ。)
確かに私がいつまでも彼女の側にいられるとは限らない。今が奇跡であって、いつか必ず別れの時は来るのだ。いつも私が守ってあげればいいという考えは傲慢だったかもしれない。やはりできる限り彼女の考えは尊重してあげようと思った。
私がそんな事を考えているとグレールも満足そうに頷いた。
「うん。素晴らしいね。自分が弱いということを受け入れつつ、それでも強くなろうと行動する精神。ただ生徒会に入れば色々な人と関わることも増えるし、きつい場面も増えるだろう。鍛える前に潰れてしまうかもしれない。大丈夫かい?」
「・・・今は大丈夫とは即答できません。ですが、頑張ります。そしていずれ大丈夫ですと即答できるようになってみせます!!」
「うん。いいね。そういう考えは大好きだ。合格だ。」
「じゃあ!!」
「うん。だけどその前に・・・。」
グレールが何かを言おうとした時、再び部屋にノックの音が響いた。
「ごめんね。ちょっと待ってて。どうぞ!!」
「失礼します!!」
グレールが応答すると、男子生徒が扉を開けて入室してきた。そのタイミングで再びグレールが風魔法で紙をとばす。男子生徒はいきなりとんできた紙を防げず、紙は額に当たった。
「いてっ!!」
「セレナーデさん。話がそれるけど、この試験はこの反応が当たり前なんだよ。私はずっと前からこの入門試験をやっているが、防げた人はほとんどいなかった。どこまで聞いていたかによるけど、対応できたことは自信をもっていいから。」
「あ、ありがとうございます。」
実は何も知らず、ただ風魔法を事前に発動させておけと言われたとは言えず、アネットは苦笑いしながら頷く。そんな中、男子生徒が不満そうにグレールを見た。
「あの~。」
「あ。ごめんごめん。君も中に入ってくれ。」
男子生徒が額をさすりながら部屋の中に入ってくる。その顔を見た時、アネットと私は驚きの声をあげる。向こうも気づいたのだろう。驚いた顔でこちらを見ている。
「貴方は・・・。」
「君は・・・。」
(ジネット・ローレル・・・。)
彼は、以前家で対面したジネット・ローレルだった。
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