第一章:濃い毛に悩んだ思春期
私の毛は、なぜこんなにも存在感があるのだろう。
思春期の私は、そればかり考えていた。
小学生のころから、私は人より毛が濃かった。
腕にも、足にも、指にも、産毛とは呼べないレベルのしっかりした毛が生えていた。
下の毛も例外ではなかった。
水泳の授業は、泳ぐのが得意だったので好きだったけれど、
恐怖だったのが「水着」。
あの、なんの工夫もないスクール水着から、陰毛がしれっと顔を出してくる。
魔の三角ゾーン。
スパッツタイプやスカート付きOKなどの配慮はまだまだない時代。
体はまだ発育途中なのに、毛だけが大人顔負けの主張をしてくる。
水着に着替える時に、必死に小さな布の中に押し込む。
体育の日も、憂うつだった。
半袖・半ズボンにならなければならず、足も腕もすべて見えてしまう。
風が吹けば、ソヨソヨと足も腕も毛がそよぐ。
中学校より後の時代となれば、毎日スカートだ。
それだけで学校に行く気にもならない。
毛をなくしたくて、夜のお風呂タイムに家のカミソリで剃ってみる。
でも技術がないから、肌ごと削ってしまって血がにじむ。
しみるお風呂に入りながら、「なんでこんな目にあうの」と泣きそうになった。
時間がかかると、母に「いつまでお風呂に入っているのよ、長すぎる!」と怒鳴られる。
理由なんて説明できなかった。いや、できても理解される気がしなかった。
「え、濁ちゃん、ヒゲ生えてるの?」
中学に入ったある日、クラスの友達にそう言われた。
冗談半分なのは分かっている。でも、その“半分”が突き刺さった。
鏡を見て確認すると、確かに鼻の下に細い毛がふさふさしていた。
あのひと言のあと、私は毎朝ヒゲを確認する習慣がついた。
思春期になると、男子はヒゲが生える、と保健体育で習った。
私も生えてる。。。
思春期は、恥と羞恥と劣等感の盛り合わせ定食だ。
なのにそこに、「毛」というスパイスがこんもり盛られていた。
「女の子は毛がない」という、どこからやってきたのか分からないねじれた前提。
その常識に、自分の身体がどうしても当てはまらなかった。
そして何より、つらかったのは「毛が濃くてつらい」と誰にも言えなかったことだった。
こんなにも毛に悩んできたのに、私は39歳になるまで「脱毛すればいい」なんて考えたこともなかった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます