下の毛から始まった、美の旅ー39歳からの自己肯定美容医療記

濁少納言

プロローグ:その毛、将来どうするの?

プロローグ

その毛、将来どうするの?


「ねえ、介護脱毛って知ってる?」


年上の友人が、昼ごはんを食べているときに、急にそんなことを言い出した。

聞き慣れない単語に「え?」と反応すると、彼女は妙に真顔で続けた。


「将来さ、自分が寝たきりとかになったとき、陰毛があると介護が大変なんだって。排泄ケアのときとかに不衛生になるし、本人も恥ずかしいじゃない? だから今のうちにVIO脱毛しておく人、けっこういるらしいよ」


……正直、ピンとこなかった。

その時点では、私はまだVIO脱毛未経験。VもIもOも、知識も興味もゼロ。

「そうなんだー」と適当に相槌を打ちながら、心の中では「そんな未来のこと、今から考える?」と半笑いだった。


でも、その日の夜、なぜかスマホで「介護脱毛とは」と検索していた。

「陰毛があると、排泄物が絡まる」「炎症を起こす可能性がある」「ヘルパーさんが処理しづらい」……そんな現実的な言葉が並ぶと、だんだん無視できなくなってきた。


それまで、将来寝たきりになった自分の姿なんて考えたこともなかったのに、急に妙にリアルに想像できてしまったのだ。

病院のベッドに寝た私。パンツをおろされ、「あらー…ちょっと毛が…」とヘルパーさんに眉をひそめられている私。

それがどうにも恥ずかしくて、嫌で、なんだか涙が出そうになった。


そんなの絶対、嫌だ。


羞恥と未来への不安がごちゃ混ぜになって、私は勢いでVIO脱毛の予約を入れた。

まさか、それが「美の旅」の始まりになるとは、このときはまだ知らなかった。


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