第八十六話:新たな技
――熱気を孕んだ風が吹き抜け、火山帯独特の匂いが鼻を突く。俺は深く息を吐いた。
(衝撃の“密度”が増した……感触は、明らかに違うな)
衝撃波を放った時の余韻がまだ腕に残っている。Lv.1のときは広く揺らす波で、確かに打撃力はあった。だがLv.2――今の衝撃は、より鋭く、重く、甲殻を裂くまでに至った……胸の奥には僅かな昂ぶりが湧き出している。
剣を握り直し、意識を深める。先ほど、衝撃波を連発したときの感覚を思い返す。
(威力は増した。それに《
スキルレベルによって得られる技には“クールタイム”というものが設定されている。強力な技であれば、より長くなる傾向にある。
《
一方、“烈撃:Lv.3”によって得られる《
クールタイムも極めて、いかに戦闘に身を置くか。今後技を取得していくと考えるのであれば避けては通れない道だ。
(つまり――制御こそが鍵だ。技を叩き込むタイミングを見極め、必要な場面で最大をぶつける。それが技という本質なのだろう)
大技を戦場で闇雲に乱発するような真似は、自らの首を絞めるに等しい。俺は頷き、呼吸を整えた。
そのとき、転がっていた熾殻魔から光が溢れ出している。
熾躯の結晶――手に取った瞬間、掌に熱がじんわりと広がる。
(……やはり落としたか。熾躯の結晶)
攻撃力-80%という致命的なもの。そのデメリットが脳裏に蘇る。だが同時に、澱心の結晶で見た“裏の顔”が思い浮かぶ。
(枷であることは確かだ。だが、その先にこそ真価がある。澱心がそうだったように、熾躯もまた、まだ奥を隠しているはずだ)
懐へ結晶を収める。
再び視線を大地へ戻す。崩れた岩壁には、俺が放った攻撃の痕跡が鮮明に刻まれていた。あのとき、確かに衝撃は濃く、深く、重くなった。
(烈撃はLv.2。怪力も併せて鍛えれば、攻撃力はさらに伸びる。熾躯の結晶の裏を極めれば……武器になる可能性が高くなる。問題は、俺にそれを扱いきる余裕があるかどうかだ)
冷静に結論を導き出す。だが、心臓の鼓動は僅かながら落ち着いていなかった。身体の奥でまだ何かが疼いている。
(悪くない。この“枷”を抱え、なお前に進む。磨き続ければ……必ず、次の段階に届く)
無意識に口元が歪んでいた。戦闘の終わりだというのに、胸の奥でまだ火が踊っている。
俺は熱風の中、薄く笑みを浮かべながら、静かに前を見据えたのだった。
◆
――熾殻魔と戦った地点から少し距離を取り、周囲を見回した。
赤黒い大地が続き、そこかしこに転がる火山岩。熱を帯び、触れただけで掌がじりつくほどの重さと硬さを秘めている。
(……ちょうどいい)
腰を落とし、大ぶりの火山岩に両手をかける。
持ち上げた瞬間、背筋に圧が走る。肩にのしかかる重量は、骨をきしませるほどだ。だが、この負荷こそが狙いだ。
(怪力の成長条件は、重いものを持ち歩くこと。そして、カウント判定は“歩数”。ならば、疾走と組み合わせれば効率は最大化する)
火山岩を抱えたまま、俺は疾走を展開する。足元が弾けるように軽くなるが、その分、肩と腕にのしかかる岩の重さが際立った。
わずかなバランスの崩れが、全身の筋肉に負荷をかけている。
だが、怪力スキルを得ていなかった時と比べたらその差は大きいものであった。岩の大きさもまた徐々に大きいものを持ち上げるようにしている。
一歩、二歩。岩を抱えたまま駆け抜ける。熱気で視界が歪み、肺に吸い込む空気が灼けるように熱い。
だが、意識は研ぎ澄まされていた。
(怪力はただの攻撃力強化ではない。身体そのものが力を効率よく扱えるように“変わっていく”。その変化を、自分の中で確かめる……)
足を止め、岩を地面に下ろす。膝にかかる重さが一気に抜け、一瞬の脱力感が漂う。
数度深呼吸してから、再び岩を持ち上げる。今度は疾走に加え、衝撃波の動きを混ぜる。
振り抜く剣筋を想像しながら、全身に負荷を分散させる。
岩が重い。腕が痺れる。だが、その重さの中にこそ確かに“鍛えの糧”がある。
(効率、理屈。俺が欲しているのはその先――限界の突破だ)
火山帯に何度も往復を重ねる。呼吸が熱に焼け、筋肉の奥が全稼働している。だが心は冷静だった。
(積み重ねは裏切らない。負荷を耐えた分だけ、身体は応える。ならば――)
さらに大きな岩を選び、両腕で抱える。骨が軋む。視界が揺れる。疾走を強引に重ね、烈撃を想定した体勢で駆ける。
地面が裂け、砂塵が舞った。
(限界を超えろ)
歯を食いしばり、最後の力で岩を頭上に掲げる。その瞬間――
《特定スキルのレベルアップを確認》
《スキル《怪力》Lv.2→Lv.3》
それと同時に、全身を覆っていた重圧が一気に軽くなった。筋肉の動きが滑らかになり、岩の重量が嘘のように扱いやすくなる。
(……来たか)
息を吐き、岩を静かに地面へ下ろす。その奥には確かに“強さ”が根を下ろしていた。
(これがLv.3。力押しではない、効率そのものの底上げ……。ただの筋力ではなく、身体全体が“扱い方”を覚えた感覚だ)
熱気が喉を焼く。だが、そへすら研ぎ澄まされた感覚の一部として受け入れられる。
(これをどこまで磨き込めるかだ)
システム上での“怪力:Lv.3”は+15%の補正がかかる。だが、それも込みで感覚を掴むのみだ。
俺は立ち上がり、軽く拳を握り込む。握るだけで、確かな手応えがあった。
(熾躯の結晶。あの枷を扱えるようになる日も遠くない。鍛え続ければ必ず――)
熱風が吹き抜け、髪が揺れる。俺は微かに出ていた額の汗を拭い、静かに息を整えた。
……空を仰ぐと、太陽は真上を過ぎた頃であった。まだ時間はある。
(怪力がLv.3になった今、次は烈撃だな)
俺は剣を握り直し、岩壁に向かって振り抜く。衝撃波が迸り、岩肌を震わせて削り取る。
“衝撃強化”によって、強力になりつつある。だが、それはあくまで揺らして削る力だ。鋭さは不足している。
そのとき――足元からざわりと音が広がった。
灼熱の大地の裂け目から、岩甲虫の群れが這い出してくる。
黒光りする外殻、赤熱した顎。数は十を超え、地鳴りのような羽音を響かせて迫ってきた。
(……ちょうどいい。制御の実験には、絶好の相手だ)
迫りくる群れに剣を振りかざし、一閃。
衝撃波が地を揺らし、数匹をまとめて吹き飛ばした。外殻が砕け、砂塵が舞い、地に叩きつけられていく。
(広域制圧……効果は上々。だが、まだ“切り札”にはならない)
奥から、ひときわ大きな個体が姿を現した。
赤黒い外殻に覆われ、双角を突き立てて突進してくる。
(こいつで試す)
剣を構え、深く息を吐く。広がる衝撃のイメージを意識から切り捨てる。
散らすな。束ねろ。揺らすな。貫け。
剣を振り下ろす。衝撃が収束し、空気が揺れる。一回り大きい岩甲虫の殻にヒビが入る。
(……なるほど、応用はできるらしいな)
先程、衝撃波をより一点に集中させるよう意識して振るった。そうすると、確かに衝撃は収束出来ていた。通常より凡そ半分ほど収束して放つことが出来ている。
(楽しいなコレは)
戦闘を通し様々な工夫を経て、ゲームにはない応用方法を見つける。より戦闘に没頭出来るように自ら道を切り開く。
それがこんなにも楽しいのだ。
《特定スキルのレベルアップを確認》
《スキル《烈撃》Lv.2→Lv.3》
一瞬、頭に新たな技がよぎった。
ただ力を叩きつけるのではなく、波を一点に収束させ、鋭く断ち割る感覚。
まるで“破壊”そのものが形を持って意識に差し込んできたかのようだった。
広域を震わせる衝撃ではない。狭く、深く、貫き、裂く。その鮮烈なイメージに、思わず握る剣が熱を帯びる。
(これか!)
「――《
轟音。
衝撃は一本の刃のごとく一直線に走り、岩甲虫を断ち割った。外殻が裂け、崩れ落ちる。
衝撃波より、深く、鋭く、かつそれを一点に集中させたかのように。トンカチで釘を打つような感覚が強く腕に伝わった。
(……これが崩断波か。衝撃波が“揺らし削ぐ”なら、これは“収束して断ち割る”モノだ)
剣を下ろす。呼吸は荒くはない。だが、心臓の鼓動が熱を帯びていた。
「なるほど」
そう声に出す。この技を繰り出した直後から始まる“余白”のようなもの。もう一度崩断波を繰り出そうと意識しても、途切れてしまう。
だが、その妙な感覚も数秒経つとたんに消える……これが“クールタイム”か。
3秒間のクールタイム。連発できないが、その分威力は申し分ないものとなっている。
(よし、これで怪力と烈撃はLv.3……両輪は揃ってきたな)
薄く息を吐き、心拍を一瞬で落ち着かせる。その瞬間を狙ったかのように――懐で通話玉が光を放った。
場所を移してから手に取ると、弾むような声が響く。
「やっほ~! アルくん、進展があったよ~!」
唐突な明るさに眉をわずかに動かしつつ、口元はほんのわずかに緩んでいたのだった。
――――――――
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
次もまた楽しんでいただけるよう頑張って書いて参ります!💪
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