第三話:模擬戦があるとか最高じゃん


――受付でそう申し出た俺に、受付嬢はきょとんとした顔を向けた。その後、慣れた口調で申し訳なさそうに告げる。


「初めての方は、まず“冒険者講習”を受けていただく必要があります。規定なので……」

「えぇ……講習ぅ?」


思わず声が漏れた。俺の目的は戦闘、戦闘、戦闘あるのみ。講習だなんて、退屈そうな響きだ。


だが次の瞬間、ある可能性に思い当たる。


(待てよ、講習ってことは……模擬戦的な何かがあるかもしれないな)


戦える可能性があると知った瞬間、俺は即答していた。


「じゃあ、受けます」

「はい。では、こちらの通路を進んで、講習室の方へお願いします――それと、本来は他の新人さんと合同でやるんですが、今回は担当が空いていたので個別でご案内させて頂きます」





――案内された部屋には、図体のデカい男がひとりいた。腕は太く、肩幅も広く、無精髭に禿げた頭が印象的なその男は、俺の姿を見るなり目を細める。


「おいおい……坊ちゃん、貴族のお出ましか?」

「あ、元です」

「“元”……? まあ、いいさ。あー……今日は座学と模擬戦、両方やってもらう。文句ねぇよな」

「倒せばいいんですね?」

「いや、“倒せ”とは言ってねえだろ……なんだお前、お盛んだな」


男は禿げた頭をぺしぺしと叩きながら、乾いた笑いをこぼした。


――講習はまず「座学」から始まった。


Fランクからスタートするランク制度、依頼の受け方、報酬の取り分、そして——依頼失敗時の責任。賠償金が発生するケース、迷惑をかけた際の対応などなど……意外にも細かく、厳格なルールが定められていた。


(……なんだか、分かるぞ?)


一つひとつの説明が、頭にスルスルと入ってくる。複雑な規定も、過去の判例も、全部つながるように理解できた。


(そうか。俺、“勉学:Lv.3”があるんだったか……)


侯爵家をいずれ継ぐ予定だったアルフォンス。それ相応の貴族教育を受けてきた記憶も含めて、思わぬ場面で活きるスキルだと分かった今、少しテンションが上がった。


(それにしても……意外と、ちゃんとしてるな)


ゲームの中では、“冒険者ギルド”も“冒険者”も、メインストーリーの背景として語られる程度の存在だった。設定も曖昧で、まあそういう組織があるらしい――くらいの扱いだったはずだ。


だが、実際こうして話を聞いてみると、ちゃんと制度があって、仕組みがあって、運営されている。単なるフレーバーではなく、一つの社会として成立している。


(やっぱり……この世界は、ゲームであって、ゲームじゃないんだろうな)


気がつけば、俺はまた少しこの世界にのめり込んでいた。


改めて”勉学:Lv.3”というスキルの効果を実感できている現状、戦闘と関係ないスキルでもこうしてスキルが作用するなら——


(戦闘スキルは、もっとすごいんじゃ……?)


今すぐにでも確認したくてたまらなくなる。だからこそ、俺は講習担当の男に告げた。


「そろそろ模擬戦しません?」

「……お前さ、座学終わったらちょっと休もうとか、そういう発想ねーの?」

「ありますよ? 模擬戦後に」

「やっぱお前頭おかしいわ」


そう言いながらも、男——ギリウスは重い腰を上げた。





模擬戦は、ギルド内の訓練場で行われる。天井は高く、足元は固くならされた土。周囲には武器の模造品が並んでいる。


「本気でやったら、まぁ……死ぬかもしれねぇからな。基本は寸止め、分かるか?」

「はい。じゃあ、俺が倒せそうになったら止めますね」

「お前のその上からの視線は何なんだよ……」


戦闘開始の合図とともに、俺は一歩、前へ出た。


初めての戦闘——いや、厳密には“この肉体での”初めての戦闘。しかし、その瞬間に悟った。


あまりにも、自然だった。


地面を蹴る足の角度、踏み込みの重心、風を裂く剣の軌道。まるで、何百回と経験してきたかのように身体が動く。


握るのは、講習用の模擬剣。それでも、木材の質、芯の詰まり具合、手のひらに伝わる微細な振動までが、まるで“道具”と一体になったように脳に流れ込んできた。


(これは――“剣術:Lv.1”の効果か……!?)


もしかしたら、スキルだけではなく“アルフォンス・クリシャール”自身の素質もあるかもしれない。腐っても、いずれ侯爵家を任されるはずだったんだ――それ相応の能力があってもおかしくはない。


目の前で構える、巨漢のギリウス。構えは素朴ながら隙がない。その右腕が動いた瞬間、俺の身体はすでに回避の動作に入っていた。


風が頬をかすめ、ギリウスの模擬剣が空を裂く。同時に俺は一歩踏み込み、反撃に転じる。


カウンター。——だが、あくまで講習。ギリウスの肩口、急所の一寸手前で、剣先をピタリと止めた。


「何だと……?」


ギリウスが一瞬動きを止めた。まるで、訓練用の人形が反応したかのように、無防備に立ち尽くしている。


(楽しい……体が、世界が、ぜんぶ鮮やかに見える!)


呼吸が深くなり、視界の端が鮮明になる。ギリウスの筋肉の収縮、足元の重心移動——“すべてが見える”。


それに――“斬れる”感覚がある。木でできた模擬剣なのに、だ。


刃ではなく、“刃の圧”を通す感覚といえばいいか……そんな言葉はないけれど。


これで“剣術:Lv.1”なら――Lv.2は? Lv.3だったら? それ以上だったら?そこには一体何が見えるんだろうか。


「——次っ!」

「ま、待て待て、一回落ち着け!」


ギリウスが手を上げる。だが、それに応える余裕がないぐらいに興奮していた。


「おい、模擬戦だぞ? 本気出しすぎだ……!」


俺は答えない。ただ、剣を構える。もう、何かが始まってしまったのだ。




――――――――――――


ここまで読んでくださって、ありがとうございます!!

楽しく読んでいただけたら嬉しいです!!


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