第三話:模擬戦があるとか最高じゃん
――受付でそう申し出た俺に、受付嬢はきょとんとした顔を向けた。その後、慣れた口調で申し訳なさそうに告げる。
「初めての方は、まず“冒険者講習”を受けていただく必要があります。規定なので……」
「えぇ……講習ぅ?」
思わず声が漏れた。俺の目的は戦闘、戦闘、戦闘あるのみ。講習だなんて、退屈そうな響きだ。
だが次の瞬間、ある可能性に思い当たる。
(待てよ、講習ってことは……模擬戦的な何かがあるかもしれないな)
戦える可能性があると知った瞬間、俺は即答していた。
「じゃあ、受けます」
「はい。では、こちらの通路を進んで、講習室の方へお願いします――それと、本来は他の新人さんと合同でやるんですが、今回は担当が空いていたので個別でご案内させて頂きます」
◆
――案内された部屋には、図体のデカい男がひとりいた。腕は太く、肩幅も広く、無精髭に禿げた頭が印象的なその男は、俺の姿を見るなり目を細める。
「おいおい……坊ちゃん、貴族のお出ましか?」
「あ、元です」
「“元”……? まあ、いいさ。あー……今日は座学と模擬戦、両方やってもらう。文句ねぇよな」
「倒せばいいんですね?」
「いや、“倒せ”とは言ってねえだろ……なんだお前、お盛んだな」
男は禿げた頭をぺしぺしと叩きながら、乾いた笑いをこぼした。
――講習はまず「座学」から始まった。
Fランクからスタートするランク制度、依頼の受け方、報酬の取り分、そして——依頼失敗時の責任。賠償金が発生するケース、迷惑をかけた際の対応などなど……意外にも細かく、厳格なルールが定められていた。
(……なんだか、分かるぞ?)
一つひとつの説明が、頭にスルスルと入ってくる。複雑な規定も、過去の判例も、全部つながるように理解できた。
(そうか。俺、“勉学:Lv.3”があるんだったか……)
侯爵家をいずれ継ぐ予定だったアルフォンス。それ相応の貴族教育を受けてきた記憶も含めて、思わぬ場面で活きるスキルだと分かった今、少しテンションが上がった。
(それにしても……意外と、ちゃんとしてるな)
ゲームの中では、“冒険者ギルド”も“冒険者”も、メインストーリーの背景として語られる程度の存在だった。設定も曖昧で、まあそういう組織があるらしい――くらいの扱いだったはずだ。
だが、実際こうして話を聞いてみると、ちゃんと制度があって、仕組みがあって、運営されている。単なるフレーバーではなく、一つの社会として成立している。
(やっぱり……この世界は、ゲームであって、ゲームじゃないんだろうな)
気がつけば、俺はまた少しこの世界にのめり込んでいた。
改めて”勉学:Lv.3”というスキルの効果を実感できている現状、戦闘と関係ないスキルでもこうしてスキルが作用するなら——
(戦闘スキルは、もっとすごいんじゃ……?)
今すぐにでも確認したくてたまらなくなる。だからこそ、俺は講習担当の男に告げた。
「そろそろ模擬戦しません?」
「……お前さ、座学終わったらちょっと休もうとか、そういう発想ねーの?」
「ありますよ? 模擬戦後に」
「やっぱお前頭おかしいわ」
そう言いながらも、男——ギリウスは重い腰を上げた。
◆
模擬戦は、ギルド内の訓練場で行われる。天井は高く、足元は固くならされた土。周囲には武器の模造品が並んでいる。
「本気でやったら、まぁ……死ぬかもしれねぇからな。基本は寸止め、分かるか?」
「はい。じゃあ、俺が倒せそうになったら止めますね」
「お前のその上からの視線は何なんだよ……」
戦闘開始の合図とともに、俺は一歩、前へ出た。
初めての戦闘——いや、厳密には“この肉体での”初めての戦闘。しかし、その瞬間に悟った。
あまりにも、自然だった。
地面を蹴る足の角度、踏み込みの重心、風を裂く剣の軌道。まるで、何百回と経験してきたかのように身体が動く。
握るのは、講習用の模擬剣。それでも、木材の質、芯の詰まり具合、手のひらに伝わる微細な振動までが、まるで“道具”と一体になったように脳に流れ込んできた。
(これは――“剣術:Lv.1”の効果か……!?)
もしかしたら、スキルだけではなく“アルフォンス・クリシャール”自身の素質もあるかもしれない。腐っても、いずれ侯爵家を任されるはずだったんだ――それ相応の能力があってもおかしくはない。
目の前で構える、巨漢のギリウス。構えは素朴ながら隙がない。その右腕が動いた瞬間、俺の身体はすでに回避の動作に入っていた。
風が頬をかすめ、ギリウスの模擬剣が空を裂く。同時に俺は一歩踏み込み、反撃に転じる。
カウンター。——だが、あくまで講習。ギリウスの肩口、急所の一寸手前で、剣先をピタリと止めた。
「何だと……?」
ギリウスが一瞬動きを止めた。まるで、訓練用の人形が反応したかのように、無防備に立ち尽くしている。
(楽しい……体が、世界が、ぜんぶ鮮やかに見える!)
呼吸が深くなり、視界の端が鮮明になる。ギリウスの筋肉の収縮、足元の重心移動——“すべてが見える”。
それに――“斬れる”感覚がある。木でできた模擬剣なのに、だ。
刃ではなく、“刃の圧”を通す感覚といえばいいか……そんな言葉はないけれど。
これで“剣術:Lv.1”なら――Lv.2は? Lv.3だったら? それ以上だったら?そこには一体何が見えるんだろうか。
「——次っ!」
「ま、待て待て、一回落ち着け!」
ギリウスが手を上げる。だが、それに応える余裕がないぐらいに興奮していた。
「おい、模擬戦だぞ? 本気出しすぎだ……!」
俺は答えない。ただ、剣を構える。もう、何かが始まってしまったのだ。
――――――――――――
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!!
楽しく読んでいただけたら嬉しいです!!
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