第45話 モジモジ

 雄黄の魔鉱石採掘地でのクニャック討伐任務は無事に完了し、ミル、マムル、リンティ、そして祓師のクレドは、ダイガーツのギルド支所に戻った。


クエストの完了報告を済ませた。報酬は、依頼分が銀貨10枚、ナピリカスのコア4個が銀貨8枚で、合計銀貨18枚だった。そして、クニャックコアは銀貨35枚でクレドの取り分となった。


今回の報酬の分け前は、事前にリンティと話し合っていた通り、ミルとリンティで均等に分けることにした。


「わあ! こんなにたくさん!」


ミルは自分のギルドカードに残高が増えるのを見て、嬉しくなった。マムルも「やったあ!」と喜んだ。


クニャックの撃退方法を知ることができた上に、報酬も得られた。ミルとリンティは、少し浮足立っていた。


そんな二人の様子を見て、クレドが冷静に注意を促した。


「クニャックの対処法を知ったからといって、油断はしないことだ。私が使った方法は、祓師の術理に基づいている。リンティ君のような魔法使いの系統とは違うため、君たちには完全に同じことはできない」


クレドは、自身が使った術が、簡単に模倣できるものではないことを説明した。


「私が使った感知の護符や、依代の人形を使えば、一時的にクニャックの動きを止めることは可能だろう。だが、完全に消滅させるには、私のような祓師が必要になる」


「なるほど……簡単にはいかないんですね」

リンティは少し残念そうな顔をした。


「クニャックは厄介な存在だ。もし再び遭遇することがあれば、不用意に近づかず、私のような専門家に頼るか、あるいは逃げることを優先することだ。今回の方法を知ったからといって、無闇に深入りしないように」

クレドは厳しく忠告した。


クニャックの撃退方法について改めて礼を述べると、クレドは最後に、自身の宣伝を付け加えるように言った。


「もし、感知の護符や、霊的な存在に対抗するための道具が必要になったら、街の道具屋『二匹のカラス』に行ってみるといい。あそこには、私が卸している商品もいくつかある」


「『二匹のカラス』ですね! ありがとうございます!」


ミルはメモを取った。感知の護符があれば、クニャックの危険を事前に察知できるかもしれない。坑道での活動において非常に役立つだろう。


クレドと別れ、ギルドを出た三人は、まずは身支度と荷物を置きに宿屋へ戻ることにした。


宿への帰り道、ミルは今日のクエストについてリンティと話し合った。

クニャックは怖かったけれど、対処法を知ることができて良かった。そして、冥色のライフルも馴染んできた。


宿の部屋に戻り、荷物を整理している時、マムルが、何かを隠し持った様子でモジモジしている。


「どうしたの、マムル? 何か隠してるの?」


ミルが優しく尋ねると、マムルは小さな手に隠していたものを、恐る恐るミルの前に差し出した。


それは、あの雄黄の魔鉱石採掘地で拾ったと思われる、小さな石だった。その石は、他の石とは明らかに違う、黄色味を帯びた赤い輝きを放っていた。大きさは、ミルの小指の爪ほどの、本当に小さな欠片だ。


「これ……!?」


ミルは思わず息を呑んだ。リンティも驚いた顔で石を見つめた。


「採掘地の岩の隙間に落ちてたの……きれいだったから、持ってきちゃった……」


マムルは、採掘行為が禁止されていたため、拾ってきたことを打ち明けるのに勇気が必要だったらしい。小さな声で、少しだけ不安そうに言った。


採掘はしていなかった。ただ落ちていただけの小さな石を拾っただけだ。それなら問題ない。ミルはマムルの健気な行動に胸を温かくした。


「マムル……ありがとう! 見せてくれて!」


ミルはマムルから石を受け取った。灯り苔の光に照らしてみると、その輝きはさらに増す。黄色味を帯びた赤い輝きは、まるで夕焼けの色のように美しい。


「これは……銀朱色の魔鉱石ね! しかも、純度が高いわ!」

リンティが興奮したように言った。


「銀朱色の魔鉱石?」


「ええ! 雄黄の魔鉱石は黄色いけど、稀に、不純物が少なく、より純度の高い魔鉱石が採れることがあるの。それがこの銀朱色の魔鉱石よ! 量は少ないけど、雄黄よりも価値が高いわ!」


リンティは、マムルが見つけてきた小さな石の価値を説明した。


(マムルが……銀朱色の魔鉱石を……!)


ミルは感動した。今回のクニャック討伐任務は、魔鉱石採掘が目的ではなかった。しかし、マムルが偶然見つけてくれたこの小さな石が、思わぬ形で新たな希望を与えてくれた。


大きさは小さい。しかし、純度が高い銀朱色の魔鉱石。これをスベンに見せれば、何か加工してもらえるかもしれないし、あるいは換金するだけでも、それなりの価値があるだろう。


「マムル、すごいよ! こんな珍しいもの、よく見つけてきてくれたね!」


ミルは改めてマムルに礼を言った。マムルは褒められて、嬉しそうに身を寄せた。


(ミルが喜んでくれて、よかったぁ!)

マムルの心は、喜びでいっぱいだった。


「よし! これは後でスベンさんに見せに行きましょう! もしかしたら、何か新しい発見があるかもしれないわ!」

リンティは目を輝かせた。


クニャック討伐の成果、そして銀朱色の魔鉱石という思わぬ収穫。ダイガーツでの冒険は予測不可能な展開に満ちているが、それは同時に、新しい発見と仲間との絆を深める時間でもあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る