第16話 ギルドと情報

 翌朝、ミル、マムル、リンティの三人は朝食を済ませてから、ダイガーツのギルド支所へ向かった。今日の目的は、ドワーフ鉱山に関する情報収集と、あわよくば鉱山での活動に繋がるクエストを見つけることだ。


ギルドの掲示板には、この採掘街ダイガーツならではの様々な依頼書が貼られていた。「坑道の魔物退治」「毒ガスが発生したエリアの調査」「地底湖漁の護衛」「新ルートの索敵」――どれも見るからに鉱山に関連した内容ばかりだ。ミルは初めて聞くものばかりで興味を惹かれたが、まずは情報収集を優先することにした。


「ふむふむ、どれもダイガーツらしいクエストね。でも、いきなり受けるのは無謀すぎるわ。まずは鉱山のことを詳しく知らないと」


リンティはそう言って、クエスト受注は見送ることにした。そして、受付の女性に声をかけた。


「すみません、ドワーフ鉱山について詳しく教えていただけますか? 特に、冒険者が活動できるエリアや、注意すべきことなど」


受付の女性は、リンティの質問に慣れている様子で、丁寧に説明を始めた。


「ドワーフ鉱山は非常に広大で、坑道が網の目のように張り巡らされています。冒険者さんが活動できるのは、主に坑道の入り口近くや、安全が確認されているエリアです」


次に、鉱山に棲む特定の魔物について説明してくれた。


「この鉱山には、『トンネルワーム』と呼ばれる魔物が棲んでいます。彼らは岩盤を食べて人が通れるトンネルを作る、気性の温厚な生き物です。私たちドワーフにとっては鉱山を広げてくれるありがたい存在なので、保護対象となっており、討伐は禁止されています。決して手を出さないでくださいね」


ミルは驚いた。魔物なのに保護対象だなんて、珍しい。岩盤を食べてトンネルを作るなんて、一体どんな魔物だろうと想像を膨らませた。


「鉱山に入るにあたって、いくつか注意点があります。まず、坑内は非常に暗く、太陽の光はほとんど届きません。そのため、明かりは必須です。特産品の『灯り苔』や、それを触媒とする『岩モグラの髭』などを使った明かりを持参してください」


灯り苔と岩モグラの髭。また聞き慣れない名前だ。ミルはメモを取りながら話を聞いた。


「それから、鉱山に棲む魔物は、外殻が硬いものが多いです。そのため、剣や短剣による斬撃や突刺、あるいは銃による魔弾のような攻撃は効果が薄い場合があります。打撃による攻撃が有効です」


ミルは自分の魔法式ライフルに目をやった。せっかく手に入れたのに、ここではあまり効果がないのだろうか? 少しがっかりした。


「打撃武器、例えばハンマーやメイスのようなものは、重量があり扱いが難しいので、慣れが必要です。もし一人で心細ければ、パーティメンバーを募集するのも手ですよ」


受付の女性はそう言って、ギルドの募集掲示板を指差した。確かに、他の冒険者とパーティを組めば、様々な魔物に対応できるかもしれない。


「奥地に進む場合は、さらに注意が必要です。特に気をつけていただきたいのは、『クニャック』という魔物です。クニャックは実体がなく、幻覚や幻聴で精神攻撃を仕掛けてきます。弱らせた獲物から生命力を奪う、非常に厄介な魔物です」


実体がない魔物? 幻覚や幻聴? ミルは身震いした。物理的な攻撃が効かないとなると、魔法使いのリンティの出番かもしれない。


「クニャックは、精神が弱っていると狙われやすいようです。常に冷静さを保つことが重要です」


受付の女性は、クニャックについて説明を終えた。


ドワーフ鉱山は、外見から想像していた以上に、様々な危険や特殊な環境を抱えている場所だと分かった。温厚なトンネルワーム、特産の明かり、外殻の硬い魔物、そして精神攻撃を仕掛けるクニャックなど、知っておくべき情報が盛り沢山だった。


「詳しい情報をありがとうございます!」


リンティは丁寧に礼を言った。ミルもそれに倣った。


「何かクエストを受注されますか?」


受付の女性が尋ねたが、リンティは首を横に振った。


「いえ、今日は情報収集が目的でした。必要な道具を揃えてから、改めて検討します」


お礼を言い、ギルド支所を出た三人は、そのまま街に散策に出ることにした。ドワーフ鉱山に入るために必要な道具を揃えるのが次の目的だ。


「さて、ギルドで色々分かったわね! 打撃武器が必要らしいし、明かりも必須ね!」

リンティは腕を組みながら言った。


「トンネルワーム、温厚な魔物なんだねぇ! 会ってみたいなあ!」


マムルはトンネルワームに興味津々のようだ。


「そうだね。でも、他の魔物もいるみたいだから、気をつけないとね。特にクニャックっていう幻覚を見せる魔物は怖いな……」


ミルは少し不安な気持ちになった。実体がない魔物なんて、どうやって戦えばいいのだろう。


「大丈夫よ、ミル。そういう時は、私の魔法がきっと役に立つわ。それに、事前に知っていれば対策も立てられるわ」


リンティは頼もしい口調で言った。リンティの言葉に、ミルの不安は少し和らいだ。


「まずは、明かりと、何か打撃武器になりそうなものを探しに行きましょう! あとは、何か鉱山で役に立ちそうな道具がないか見てみましょう!」


リンティは張り切って歩き出した。ミルとマムルもそれに続く。


ドワーフの街は、歩いているだけでも楽しい。露店には珍しい鉱石や、ドワーフが作ったと思われる頑丈な道具が並んでいる。行き交うドワーフや獣人たちの話し声も興味深い。

必要な道具を揃え、ドワーフ鉱山での活動に向けた準備を進める。それは、これから始まるダイガーツでの冒険の、最初のステップだった。

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