第17話 出会いと工房
ドワーフ鉱山に入るために必要な道具を揃えるべく、ミル、マムル、リンティの三人は、まずはギルドで教えてもらった坑内用の明かりを探しに、ダイガーツの街を回り始めた。いくつかの雑貨店や道具屋を巡る。
「灯り苔、ありますか?」
ミルが尋ねると、店の人は奥から緑色の、ぼんやりと光る苔を見せてくれた。
「これが坑内用の明かりになるんですね」
ミルは納得した。マムルは不思議そうに「わあ、ほんとに光ってる!」と苔を見つめた。
灯り苔は手に入ったものの、触媒となる「岩モグラの髭」がどこのお店にも置いていない。
「すみません、『岩モグラの髭』は置いてませんか?」
いくつかの店で尋ねてみたが、返答はどこも同じだった。
「岩モグラの髭かい? あれはあんまり店では扱ってないんだ。たまに露店で見かけることはあるんだがね」
どうやら、岩モグラの髭を店で買うのは難しいらしい。
「露店か……」
リンティが顎に手を当てて考え込む。
「仕方ないわね。街の広場なら露店が出ていることもあるそうだから、そっちへ行ってみましょうか」
三人は街の広場へ向かった。広場には多くの露店が並び、賑わいを見せている。
珍しい品物が所狭しと並べられており、見て歩くだけでも楽しい。岩モグラの髭がないか探しながら露店を見て回っていると、一人のドワーフがミルに声をかけてきた。
そのドワーフは、がっしりした体格に長く立派な髭を蓄え、手に何かを加工する道具を持っていた。
ドワーフはミルの背負った魔法式ライフルを見て言った。
「お嬢さん、ずいぶん珍しい武器を持っとるな」
ミルは少し驚いた。グレスの街でも珍しいと言われたが、ドワーフの街でもそうなのだろうか。
ミルが「あ、これですか? 魔法式ライフルっていうんですけど……」と説明しようとすると、ドワーフは興味深そうに近づいてきた。
「ほう、魔法式ライフルか。遺跡から発掘されたものだろう? 状態も良さそうだし、それに、その銃床に嵌められた魔石もなかなか良い純度だ」
ドワーフはミルからライフルを受け取ると、熱心に調べ始めた。ミルは、魔法式ライフルにこれほど詳しい人がいることに驚いた。
「あんたたち、冒険者かい?」
ドワーフが尋ねた。リンティが胸を張って答える。
「はい、そうです! 私はリンティ。天才魔法使いよ!」
ミルも続く。
「私はミルです。こっちは相棒のマムル」
マムルもミルの肩から顔を出し、ドワーフに挨拶した。
「マムルです! こんにちわー!」
ドワーフはマムルに少し驚いたようだったが、すぐに穏やかな表情に戻った。
「ふむ、若い冒険者さんたちか」
スベンと名乗ったドワーフは言う。
「わしは『大地の選鉱』の工房主スベンだ。ここで、こういった珍しい武器の加工なんかも請け負っている」
スベンはそう言って、露店の並びから少し外れたところにある、石造りの頑丈そうな建物を指差した。そこには「大地の選鉱」と看板が出ていた。
ミルは興味津々で尋ねる。
「銃の加工もされてるんですか?」
「ああ、数は少ないがな。だが、古い銃の修理やカスタマイズは得意だ。もしよかったら、詳しい話を聞きに来ないか?」
スベンの提案に、ミルは二つ返事で頷いた。自分のライフルについて、もっと詳しく知りたいという気持ちが強くなったのだ。
スベンに案内され、三人は「大地の選鉱」の工房へ足を踏み入れた。中からは鉄を打つ音や石を削る音が響いてくる。様々な機械や道具が並べられ、職人の熱気が肌で感じられる空間だった。
スベンは工房の一角にミルを案内し、改めて魔法式ライフルについて説明を始めた。
「このライフルは構造はシンプルだが、その威力は、銃床に嵌められた魔石の性能に大きく依存する。魔石の種類や純度によって、撃ち出す魔弾の威力や性質が変わるんだ」
スベンは様々な色や形、輝きをした異なる魔石をいくつか見せてくれた。ミルは初めて知るライフルの仕組みに「へぇ、そうなんだ!」と感心する。
「お前さんのライフルに今嵌まっているのは標準的な魔石だ。これでも威力は十分だが、もっと良い魔石を使えば、さらに強力な魔弾を撃てるようになる」
スベンは続ける。
「魔石は店でも売っているが、非常に高価だ。だが、冒険者なら、自分で採取してきた方が断然安上がりになる」
「自分で採取ですか?」
「ああ。特にこのダイガーツのドワーフ鉱山では、良質な魔鉱石が採れる。その魔鉱石を加工したものが、こうした魔石になるんだ」
なるほど。ドワーフ鉱山で魔鉱石を採取し、ここで加工してもらえれば、自分のライフルの魔石をより強力なものにできるのか。
「魔鉱石を採取して、ここで加工してもらえれば、私のライフルももっと強くなるってことですか?」
ミルが尋ねる。スベンは力強く頷いた。
「その通りだ。良い魔鉱石を持ってくれば、お前さんのライフルも、鉱山の外殻が硬い魔物にも、そこそこ対応できるようになるだろう」
これはミルにとって大きな情報だった。ギルドで鉱山の魔物には打撃が有効だと聞き、少しがっかりしていたが、ライフルの性能を上げれば、それでも戦えるようになるらしい。
「もし、良質な魔鉱石が見つかったら、ここで加工してもらえるんですか?」
ミルが尋ねる。スベンはニッと笑った。
「ああ、もちろんだとも。冒険者が自分で採取してきた魔鉱石を加工するのは、わしらの仕事の一つだからな。遠慮なく持ってくるがいい」
スベンが快く加工を引き受けてくれると約束してくれ、ミルは心底嬉しくなった。ドワーフ鉱山へ行く目的が、さらに明確になったのだ。
「ありがとうございます、スベンさん! 頑張って魔鉱石、見つけてきます!」
「うむ、期待しているぜ、お嬢さん」
リンティはここぞとばかりに得意げになる。
「ふふん、これでミルも鉱山で活躍できるわね! 天才の私が選んだライフルに、天才の私が導いた情報、そして天才の私が一緒にいれば、最強じゃない!」
「そうだね! スベンさんにも知り合えたし、ライフルも強くなるかもしれないし、嬉しいねぇ!」
マムルも喜んでいる。
スベンに改めて礼を言い、「大地の選鉱」を出た三人は、改めて街の散策に戻ることにした。
必要な道具は、岩モグラの髭と、食料などの基本的なものだ。ドワーフ鉱山で、自分のライフルを強化するための魔鉱石を見つけるという、新たな目標ができたミルは、胸を膨らませながらダイガーツの街を歩き始めた。
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