第9話 祝賀と目標

 フハイノサカズキの退治を終え、ミルとリンティは村長に報告に行った。村長は畑の被害がこれ以上広がらないことに安堵し、深々と頭を下げて感謝を伝えた。「誰かの役に立つことができた」という喜びが、ミルの心を温かく満たした。


クエストの報酬は銀貨8枚。さらに、リンティが採取したフハイノサカズキのコアが2個あり、これはギルドで銀貨2枚で買い取ってもらえた。合計銀貨10枚となった。

今回の報酬の分け前について、リンティは再び「実直な労働には実直な報酬を」という原則に従い、ミルの貢献度を考慮した上で提案した。


「今回のクエストでメインに魔物を倒したのは、ミルでしょう?それに、胞子を防ぐ魔法は使ったけれど、戦闘の大部分はミルが担ってくれたわ。だから、今回の取り分はミルの方が多いべきよ」

リンティはそう言って、銀貨10枚のうち、ミルに6枚、自分に4枚を分けた。


「え、いいの? リンティは胞子を防いでくれたのに?」


ミルは再び戸惑った。リンティのサポートがなければ、胞子の幻覚で攻撃できなかったかもしれないのだ。


「いいの。これも「実直な報酬」よ。あなたは初めての実戦で怖い気持ちを乗り越え、魔物を倒した。その勇気と功績は、正当に評価されるべきだわ」

リンティはきっぱりと言い切った。そして、ギルドカードに銀貨6枚を入金するよう促した。


「これで、あなたのギルドカードも少しずつ豊かになってきたわね! 冒険者らしくなってきたじゃない!」

リンティはミルのギルドカードを見て、満足そうに笑った。ミルも、カードの残高が増えていくのを見て、冒険者として着実に成長していることを実感した。


その数日後、孤児院にあるミルの小さな一室で、ささやかな祝賀パーティが開かれていた。参加者はミルとマムル、そしてリンティ。また、酒場から連れてこられたらしい巨大なミケ猫のコールもいた。コールはリンティの膝の上で気持ちよさそうに丸まっていた。


テーブルには、孤児院のシスターが作ってくれた簡単な料理や、アールがサービスしてくれた酒場のつまみが並べられていた。


「ミル、改めて、初めての魔物討伐、おめでとう!」


リンティがジュースグラスを掲げた。ミルもジュースグラスを持ち、リンティとグラスを合わせた(乾杯した)。

ミルの頭の上のマムルも、小さなジュースグラスを持って「カンパーイ!」と叫んだ。


「ミル、かっこよかったよ! ヌメヌメキノコをバンバン倒してたね!」


マムルに褒められ、ミルは少し照れた。

初めての実戦は怖い気持ちもあったけれど、新しいライフルを使って魔物を倒せたことは、ミルにとって大きな経験だった。

心地良い達成感と、少しの自信が胸に芽生えていた。


「まあ! 私の選んだ魔法式ライフルと、私の指導の賜物ね!」

リンティは「ふふん」と笑った。コールもリンティの膝の上でゴロゴロと喉を鳴らし、祝福しているかのようだった。


和やかな雰囲気の中、リンティはミルに尋ねた。

「さて、次の冒険はどうするつもり?この街周辺の簡単なクエストもいいけど、そろそろ他の地域にも足を延ばしてみるのも面白いかもしれないわね。」


ミルはまだ、この街のことしか知らない。ギルドに登録したことで他の街の情報も入ってくるようになり、様々な場所への興味が湧いてきていた。


「他の地域……? どこかおすすめとかあるの?」

ミルが尋ねると、リンティは少し考え込んだ。


「そうねぇ……冒険者として経験を積むなら、候補はいくつかあるけど…ドワーフ鉱山なんかはどうかしら。」


「ドワーフ鉱山?」


ミルは聞き慣れない名前に首を傾げた。ドワーフという種族がいることは知っていたが、鉱山については詳しくなかった。


「ええ。この国の北に位置する寒冷地との間にあり、ドワーフたちが掘り進めた巨大な鉱山があってね。そこでは、貴重な魔鉱石がたくさん採れるのよ。魔鉱石は、加工して魔石にしたり、武器や防具、魔法道具の材料になるから、冒険者にとっては需要が高いわ。それに、鉱山には魔鉱石に集まる魔物もいるそうだけど、危険な魔物は多くないらしいの。ドワーフの鉱夫たちもいるから、いざという時には助けてくれると思うし……初心者でも比較的安全に経験を積める場所だと思うわ。」


ミルにとって、ドワーフ鉱山は魅力的な場所に思えた。

「へぇ……ドワーフ鉱山かあ……」


ミルは目を輝かせた。マムルも興味津々といった様子だ。

「ドワーフさんって、どんな人たちかなぁ?」


「ふふん、ドワーフはね、体が頑丈で手先が器用な種族よ。無口で頑固な人も多いけど、一度信頼した相手には義理堅いし、とても良い人たちよ。」

リンティはドワーフについて語った。


「どう? 興味ある?」


リンティにそう聞かれ、ミルは迷わず頷いた。

「うん! 行ってみたい! ドワーフ鉱山!」


新しい武器を手に入れ、魔物との戦闘も経験した今、ミルはもっと広い世界を見てみたいという気持ちが強くなっていた。ドワーフ鉱山は、そのための良いステップになるかもしれない。


「よし、決まりね! じゃあ、次のクエストはドワーフ鉱山関連で探してみましょう! 天才の私が一緒に行ってあげるわ!」

リンティはそう言って、再び得意げに笑った。コールはリンティの膝の上で気持ちよさそうに眠っていた。


ささやかな祝賀パーティは、これからの冒険への期待と、新しい仲間との絆を深める時間となった。ドワーフ鉱山という新たな目標を胸に、ミルは冒険者としての道を、一歩ずつ進んでいく決意を新たにしたのだった。

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