第7話 万屋と武器
ミルに案内され向かったのは、街の賑やかな一角にある万屋『ゼニナル』だった。孤児院育ちのミルは、必要なものがほとんどそこで賄われていたため、こういった店に入ったことはなかった。外観は、あらゆるものが積み上げられているように見え雑然としていたが、活気のある雰囲気が漂っていた。
「ここが万屋『ゼニナル』ね! 何でも揃う便利なお店!」
リンティはゼニナルの前で立ち止まり、店の看板を指差した。看板には、様々な日用品や道具、そして武器らしきものの絵がごちゃまぜに描かれている。
店の扉を開けて一歩足を踏み入れると、そこはまさに「雑多」という言葉がぴったりの空間だった。天井から吊るされた乾物、壁にかけられた農具、棚に並べられた薬瓶や雑貨……あらゆるものが所狭しと並べられ、独特の匂いが充満していた。
「うわあ……すごいねぇ」
ミルは目を丸くした。マムルもミルの髪から顔を出し、キョロキョロと辺りを見回している。
「ほんとだ! 見たことないものがいっぱいあるよ!」
リンティは慣れた様子で、店内の奥へと進んでいった。
「このゼニナルなら、珍しいものや掘り出し物があるはずよ! さあ、私たちの目的は武器コーナーよ!」
リンティに続いて店内を進むと、店の奥の一角に、他の商品とは少し雰囲気の違うエリアがあった。そこが武器コーナーのようだった。壁には様々な種類の武器がかけられ、棚には刃物や防具の一部が並べられていた。
しかし、ミルが知っている剣や斧、弓といった一般的な武器だけでなく、そこには見慣れないものがたくさん並んでいた。刃のない奇妙な形の柄、用途不明の金属の輪っか、複雑な機構を持つ杖など、まるでガラクタのようなものも混ざっていた。
「うわあ、色々な武器があるんだねぇ」
ミルは興味津々で武器を眺めた。自分の腰にある短剣とは全く違う、見るからにプロ仕様の武器ばかりだった。
リンティは武器コーナーに入ると、真剣な表情で並べられた武器を吟味し始めた。
「ミルに合う武器ねぇ……」
リンティはそう呟きながら、一つ一つの武器を手に取ったり、眺めたりしていた。ミルはまだ冒険者になりたてで、特別なスキルや戦闘経験はほとんどない。そんなミルのことを考えて、リンティは武器を選んでくれていたのだ。
「ミルは、まだ経験が少ないし、魔法も使えないから、まずは扱いやすい武器がいいわね。近接戦闘は危険が多いから、できるだけ距離を取って戦えるものが理想かしら……」
リンティはそう考えながら、ある武器に目を留めた。それは、他の剣や斧とは全く違う、細長い筒のような形をした金属の塊だった。
「これなんかどうかしら」
リンティが手に取ったのは、一見するとただの金属の棒のようにも見えたものだった。しかし、よく見ると、片方の端には銃のような引き金がついており、もう片方には弾倉のようなものが取り付けられるようになっていた。
「これ……銃?」
ミルは驚いた。こんな形をした武器は、物語の中でしか見たことがなかった。
「ええ、魔法式ライフルよ」
リンティはそう言って、ライフルの構造について説明を始めた。
「これはね、銃床の魔石を媒介にして、魔力充填式のカートリッジを使って、魔弾を射出する武器なの。敵との距離を取って戦える中近距離に対応しているし、構造も比較的単純で、扱いやすいわ。それに、軽いから携行しやすいのも利点ね」
リンティはライフルの引き金を引くジェスチャーをした。
「引き金を引くだけで、威力のある魔弾が発射されるの。魔力を込めなくても使えるから、ミルみたいな魔法使いじゃない人でも大丈夫よ。もちろん、魔力を込めればもっと強力な弾を撃つこともできるけど、今のミルには必要ないでしょう」
ミルは興味津々でライフルを見た。引き金を引くだけで魔弾が飛ぶなんて、魔法みたいだ。これなら、自分でも魔物と戦えるかもしれない。
「でも、こんな武器、初めて見たよ」
「ええ。銃はね、この世界ではあまり普及していないのよ。量産技術が確立されていなくて、使えるものはほとんどが古代遺跡から発掘されたものを修理したものなの。だから数が少なくて、手に入れるのが難しいのよ。それに、剣や魔法といった伝統的な武器に比べて、あまり人気もないみたいね」
リンティはそう言って肩をすくめた。確かに、周りを見ても、銃のような武器を扱っている冒険者は見かけない。
「このライフルは、状態も良さそうだし、ミルにぴったりだと思うわ。お値段は……」
リンティは値札を見た。そこには銀貨10枚と書かれていた。
「銀貨10枚か……ちょっと高いわね」
ミルは少し顔を曇らせた。今日の報酬は銀貨9枚だった。これでは足りない。
「ふふん、任せなさい。こういう時は、天才の値引き交渉術の見せ所よ!」
リンティはそう言って、自信満々に笑った。そして、店主に話しかけに行った。リンティは流暢な口調で、ライフルの状態や市場価値、そして「この若い冒険者が初めての武器を探している」といった話を織り交ぜながら、巧みに値引き交渉を進めていった。
しばらくの交渉の後、リンティは満足そうな顔で戻ってきた。
「ふふん、やったわ! 銀貨7枚にしてもらったわよ!」
「え! 本当に!?」
ミルは目を丸くした。銀貨7枚なら、今日の報酬で十分買える!
「ええ! さすが私でしょ? 店主も、あなたの熱意に打たれたみたいよ! さあ、買いましょう!」
ミルは感謝の気持ちを込めて、リンティと店主に礼を言い、銀貨7枚で魔法式ライフルを購入した。ずっしりとした重みが手に伝わってきた。これが、自分の最初の武器だった。
「ありがとう、リンティ! すごく嬉しい!」
「どういたしまして! これで、あなたも立派な冒険者の一歩を踏み出したわね! さあ、早速試し打ちに行きましょう!」
店を出た三人は、人通りの少ない街の外れにある、試し打ちができるエリアへと向かった。そこには、的に使えそうな古木や岩がいくつか置かれていた。
「よし、ここで練習しましょう!」
リンティはそう言って、ミルに魔法式ライフルの使い方を簡単に教えた。カートリッジの装填方法、構え方、そして引き金の引き方。
「大丈夫だよ、ミル! マムルも応援してるからね! がんばって!」
マムルはミルの肩に止まり、小さな声援を送った。ミルはライフルを構え、リンティに言われた通りに引き金を引いてみた。
音と共に振動が肩に伝わり、小さな光の塊が銃身から飛び出し、的の古木に当たった。
「おお! 撃てた!」
ミルは興奮した。初めて銃を撃ったのだ。
最初は上手く的に当たらなかったが、マムルの応援と、リンティの的確なアドバイスを受けながら、ミルは繰り返し練習に励んだ。撃つ度に、肩に感じる反動の感触や、魔弾が飛んでいく様子に慣れていった。
リンティはミルの練習の様子をじっと見守っていた。ミルの飲み込みが早いことと、集中力に感心しているようだった。
日が傾いてきた頃、ミルが的の中心に当てられるようになったのを見計らって、リンティが声をかけた。
「ふふん、なかなか筋が良いじゃない! もうだいぶ慣れたでしょう?」
「うん! なんとか!」
ミルは額の汗を拭いながら答えた。
「よし! それじゃあ、早速実戦で試してみましょうか!」
リンティはそう言って、にこりと笑った。ミルの心臓が跳ねた。実戦?
「実戦って……」
「ええ! ちょうど良い簡単なクエストがあるのよ! 試し打ちの成果を試すにはもってこいね! 今日は、もう遅いから明日アール&コールに集合してから出発しましょう!」
クエストの内容は、またしても出発してから教えてくれるようだった。
新しい武器、魔法式ライフルを手に、ミルはマムルと共にリンティの後を追った。
冒険者としての道は、まだ始まったばかりだが、頼りになる仲間と、心強い武器を手に入れた今、ミルはこれから始まる冒険に、期待と少しの緊張を胸に、胸を膨らませていた。
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