幕間 今はまだ、もう少しだけ

 5年後、知怜は世名に覚えてもらって、自分の名前を呼んでもらって当時感じていた苛立ちは完全に消えた。

 そして、あの時の憧れと勘違いの結果生まれた恋情が残った。


 久しぶりにあった世名さんはなんか雰囲気が変わってたなぁ。優等生な世名さんも素敵だけど自信に溢れた世名さんもやっぱり魅力的だよね!


 知怜の脳は、もはや恋と憧れでショートしていた。けれど、彼のポンコツな脳は今、人生で一番の幸せを感じている。




 今回のテスト、勝って世名の記憶に残りたいという思いはもちろんあったが正直なところ引き分けで安心している。


 何年も追い続けた相手とこうして勝負をして、楽しく話せる今の時間が心地よくてたまらない。絶対に壊したくない。

 たとえいい方向に進む可能性があったとしても絶対に変わってほしくないと思う。


 もしも僕が彼女に負けてしまう日が来たら?

 世名さんはきっと僕への興味をなくすだろう。少なくとも今の知怜にとってはそうとしか思えなかった。


「やっぱり勝負はなしにしてもらってもいいかな?」

「敵前逃亡か。つまり私の不戦勝ということだな」


 結局期末テストでの勝負は断ってしまった。


 知怜はこの時間がずっと続くことを心から願っている。それが逃げでしかない、こんな調子じゃ世名に好きになってもらうなんて夢のまた夢でしかないと分かっていても。



 ちなみに、知怜は後に秀に世名との出会いを話したが、


「え?あいつそんなキャラだったの?一人称『僕』?ピアノ?ヤベェツッコミが追いつかねぇ。というか人違いだろ」

「僕が世名さんを間違えるわけ無いでしょ!」


 と好評だったらしい。

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