幕間 天才じゃないので理解できない

 世名が去ったあと秀は知怜に話しかけた。


「いきなりあんなこと言われてびっくりしたよな。なんかごめんな」


 友人として一応フォローしといてやろうと思った。

 人の神経を逆撫でする話し方はいただけないが別に嫌なやつではないのだ。


「大丈夫だよ。いや、むしろ思わぬ幸運だよ」


 ん?何だって?

 だが先程まで呆然としていた知怜の顔は赤く染まり声は少し震えている。なんだろうか、どうみても興奮している。


「やっと、やっと会えた……分かるか!?この気持ち!」

「おっおう、わからねぇ」

「僕はあんなに衝撃を受けたのに彼は僕の名前さえ覚えてくれなかった」

「うん?」


 目がやばい。そして勢いがすごすぎて突っ込めない。

 というか 彼?こいつもしかして……


「いつか見返してやるためにどれだけ努力したと思ってるんだ。あのころは名前も覚えてもらえなかったのに今では彼の方から来てくれた」

「ちょっと待て」


 やっぱりそうか


「世名は女子だぞ?」

「えっ?」


 一瞬時間が止まった。


「……でも制服」

「スカートは動きにくいからってズボンを履いてるだけで普通に女子だ」

「……は?」


 やっぱり勘違いしてたか。まぁ確かに世名の顔はかなり中性的だし声も男子としてあり得る範囲だしな。


「女子?女子……」


 そう思っていると知怜の顔がどんどん赤くなっていった。


「女子と話したのなんて何年ぶりだ?あんなにまっすぐ見つめてきて僕の名前……」


 なんていうか忙しいやつだな。しかも女子と話すのが何年ぶりかだなんて。

 秀は一瞬、知怜をヤバいヤツの枠に入れそうになったが、初心な反応をみて除外してあげた。

 たぶん知怜がおかしくなったのは世名のせいだろう。

 信頼の差が容赦なく思考に影響していく。


「でも、ならなおさら負けられない。世名さんが女子という前提で見ると……秀くん、君は世名さんのことが好きなんだろ」

「は?」


 秀は照れることもなく普通に引いていた。

 なんやかんやいいやつであったとしてもあの変人を好きになることはありえないからだ。しかもこんな短時間で世名に恋をして更に秀をライバル視したのか……?


「ここで世名さんに勝つことができれば、僕は世名さんの記憶に残ることができる。もうあの頃の無力な僕じゃないんだ。秀くん!君と世名さんが一緒にいた時間なんて些細なものだ。僕は絶対に負けない!」


 なんか熱いセリフを言っている気もするが完全に場違いだ。そして目がやばい。完全に正気じゃない。

 秀はためらうことなく知怜をヤバいヤツの枠に入れた。


 あれ?常識人枠だと思っていたのに、巻き込まれる可哀想な被害者仲間だと思ったのに……。

 秀はなんだか裏切られたような気がした。

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