第50話「非才無能、魔人を知る」

「おや、別にあなたに用はないのですがね?手に持つ武器以外は美しさの欠片もありませんから」

「黙れ!」

「《裂》」



 俺の意志に応え、マリィが真空刃を放つ。

 まずは牽制である。

 斬れずとも、怯みはするはず。

 その隙に距離をつめて。



「今、何かした?」



 倒せないのは、想定していた。

 斬れないのはわかる。

 だが、眉一つしかめないのは、想定にない。



「オリハルコンーー」

「ああ、私が纏っている金属はオリハルコンで間違いないよ。強度を上げるためにアダマンタイトも混ざった合金だがね」

「…………」



 オリハルコンと、それよりさらに強度が高い金属でその身を覆っている。

 先ほど、錬金魔人を名乗っていた。

 シャーレイ達やルーチェを黄金像に変えるだけでなく、自身にも金属をまとわせたりできるらしい。

 そもそもが、金属を使って茨のような攻撃を仕掛けてきた相手だ。

 それくらいのことはやってくるだろう。



「考えろ、考えるんだ」



 禿頭の怪人を見ながら、俺は攻略法を必死にひねり出す。

 《裂空斬》では、奴を斬ることが出来ない。

 やつを倒すには、直接斬撃を当てなくてはならない。

 だが、どうすればいいのか?

 仲間が全員黄金の像と化してしまった絶望的状況で、どうやって勝てばいいのだろうか。

 まして、こちらは一度でも攻撃を食らえばそれで終わりなのだ。

 勝率はせいぜいでよくて五割といったところだろう。

 俺はもう一度挑みかかろうと、剣を構えて。



「貴方に、用はありません。どこへなりとでも消えてしまってくださいね」

「はあ?」




 ハーゲンティの言葉に固まった。



「私は美しいものを集めています。つまり、貴方には興味がありません」

「何言ってるんだ?」

「そこにいる者達は、以前街をゴーレムに襲わせた際に、目をつけていたコレクションです。主目的はすでに黄金化したコレクションの回収でした。まあ、貴方に邪魔されてしまいましたが、構いません。結局はいつでも回収できる程度のものでしかありませんからね」



 ハーゲンティの目を、俺は見た。

 俺には、《真偽法》や《心理分析》のような相手の心をしるスキルはない。

 けれど、わかる。

 わかってしまう。

 ハーゲンティの言葉に、嘘偽りがないことが。

 こいつは、コレクション感覚で人を襲い、黄金に変え、収集しているのだ。

 それがどれほどの犠牲を出しているか、どれだけの人から笑顔を奪っているのか考えもしないで。

 


「悍ましい……」




 これまで会ってきた者達のことを思い返す。

 善人もいれば悪人もいた。

 むしろ、一癖も二癖もある人間の方が、知り合いには余程多い。

 そんな連中と比較してなお、こいつの異常性は規格外に過ぎる。

 ライラックの暴力性が、生易しく思えるくらいだ。

 あいつは、善性の欠片もない悪人だったが、人間だった。

 夜盗をはじめとした、俺が仕事上で関わらざるを得なかった者達も、間違いなく人間だ。

 こいつは違う。

 人馬一体の外見ではない。そういう種族は少数ながらいると聞く。

 金属を操る能力ではない。確かに凶悪で悪辣極まりないが、錬金術の延長にあるものだ。

 心だ。

 心の在り様が、人と違いすぎる。

 共感も、理解も、同情も、納得も。

 その目は、何も求めていない。

 ただ、己の醜悪な欲望を満たしたいだけ。

 魔人と呼ばれるだけのことはある。

 こいつらはそういう生き物なのだ。

 駆除する以外に選択肢のない、害獣だ。

 それ以外のことには、興味はないのだろう。今も俺のことは本当に眼中にないらしく、視線を俺から外している。

 こちらに興味一つ持っていないことに不快感が増すが、逆にチャンスではないかと思い始める。

 剣を握りしめ、駆け出す。

 が、それは黒い影によって阻まれる。




「なんだ、これは」

「ゴーレムだよ。回収用に作ったけど、別に壊れても困らないしここで使おうかと思ってね」



 黒々としたオーラをまとった金属質な人型。

 これもゴーレムなのか。

 見た目も、威圧感も、あのオリハルコンゴーレムより格上だが。

 関係ない。

 このゴーレムが回収用と言うなら、まずこいつからだ。

 そしてそれが終わったらハーゲンティを。



「殺しといて――」

「殺してやる」



 どうでもよさそうに命じる声と、全力の殺意を乗せた声が重なって。

 漆黒の傀儡と、魔剣の主が激突した。





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