13:訓練しようね大事だよ


「ん~♡ まずミズキちゃんだけどぉ。基礎は出来てるね♡ でもそれ以外がぜ~んぜんダメダメ~♡ 頭カチカチでスカスカなの♡ 固定観念にとらわれすぎ~♡」


「す、すいません……。」



樋口アヤさん。私がまだ地元で小学生だったころ、ルミナフィルですらなかった頃に活躍されてた魔法少女の言葉につい謝ってしまう。


ちょっと小声で『そんな素直に謝られるとちょっとペース崩れる』みたいなこと言ってらっしゃるが、正直イスズさん同様雲の上の人だ。いやイスズさんは雲の上と言うか宇宙そのものになっちゃったけど。


イビルエンジェル、現役は引退されているが、いまでも偶に活動しているこの日本における実質的なNo.2。イスズさんが未だ現役なので一位は確定として、本来現役の者が2位に入るのを阻止し続けているのが、彼女だ。現役を退かれていらっしゃるが故に上層部、政府からの発表にその名が挙がることはないが、私達全員がそのことを理解している。



(……なんど見ても理解できない、何あの魔力の練り上げ方。)



第一線で戦っていたころと比べると1%以下の魔力量になってしまったそうだが……、ほんの少し魔力を目に送り、彼女の肉体に残るそれを見れば、簡単に理解できてしまう。その密度が尋常ではない。確かに他の引退された方同様魔力の量は私よりかなり少ない。けれどその密度と練り上げ方が頭おかしいのではと思うほどに、濃いのだ。


なんだろ、私が一滴のカルピス原液と100Lの水で作ったカルピスだとしたら、あっちは1L全部カルピスの原液みたいな感じ?



「あ~♡ 覗き見したらダメなんだぞ♡ デリカシーの無いよわよわさんなのかな~♡ でもワタシと~っても優しいから、見逃してアゲル~♡ ……ちょっと真面目に話すけど、ミズキちゃんの得意魔法って『光』だよね。」


「あ、はい。」



急に切り替わった話し方に驚きながらも、そう答える。



「うん、やっぱり『光』って概念にとらわれ過ぎてるね。まぁそういう属性系の子は凝り固まっちゃうの仕方ないんだけど……。魔法ってね。とっても自由なのよ。解釈の一つで無限の可能性が出てくる。私はあんま得意じゃないんだけど……。セ・ン・パ・イ♡ 魔力かして♡」


「トイチな?」


「し・ね♡」



そう言い合いながらイスズさんから魔力を借り、魔法を起動するアヤさん。さっきまで実演として彼女に見せていた私の得意分野、『光』系統の魔法だが……。


あまりにも洗練され過ぎている。なにこの、無駄を全部削ぎ切った完成系は。



「ワタシの魔法、『省略』だからね~♡ こういうコストカット、大得意なの♡ まぁその分余裕がなくなるから、一長一短なんだけどね~♡ はい出来た♡」


「…………実体剣。」


「そ♡ 光って不確かなものに形を与えたの♡」



そう言いながら、メスガキ言葉で淡々とご説明してくださるアヤさん。


確かに彼女の言う通り、私の魔法は漠然とした光のイメージを固めて攻撃に使用している。でもそのせいかいつも威力不足に陥っていた。そして光をこの名に関していながら、光より遅かった。言ってしまえば光が何か大きな敵を打ち倒すイメージや、ただの人間でしかない私が光と同じくらい速く動けるわけがないと無意識のうちに考えてしまっていた、と言うのが原因らしい。



「あの大幹部? ざこさんとの戦闘みせてもらったけど~♡ 速度も威力もよわよわ~♡ でもそういう常識的な考えは、結構大事なんだよ~♡」


「そ、そうなんですか。てっきり、捨てるとばかり……。」


「基本や常識捨てたお馬鹿さんは、み~んなザコって昔から決まってるんだよね~♡ ……そこの規格外除いて。これは例外ね、うん。」


「メスガキ?」



イスズさんの追及を二人で聞き流しながら、アヤさんの話を聞く。


確かに常識を捨てて意識を変えることで自分を光と同化させたり、光をより高火力へと変貌させることが出来るらしいが、それも同様に火力の問題に行き当たるらしい。確かに一時的な効果の上昇は見られるが、いつか人の想像力の限界に到達し、高いイメージを求めすぎるがあまり取り返しのつかない失敗をする可能性があるそうだ。



「だから~、私達みたいな凡人は数字をつかうの♡ 数学と科学、人類が積み上げて来た“解りやすい”ものを使って、魔法に落とし込むの♡ 1トンの爆薬の威力を想像しろって言われても、すぐに出来ないでしょ♡ 事前知識は必要だけど、数字でそれを表して魔法に落とし込むの♡ たとえば……。」



軽く石ころを拾い、そこに『光』の概念を付与するアヤさん。



「これ、イメージだけね♡」



そう言いながらイスズさんに放り投げると、確かにかなりの速度で向かっていき、その胸に直撃し弾け去る小石。確かに速くて威力もそれなりだが、肉眼で追えてしまうし、これで魔法少女として生き抜けと言われると不安の残る威力。確実にあの大幹部に通用しない攻撃だと言える。



「でも、ここに『光速で射出される』って式を埋め込めば……、えい♡」



その瞬間、途轍もないエネルギーと共に、打ち出される小石。一瞬で視界が光で埋まり、私達の鼓膜を破裂させるような轟音が鳴り響く。そ、そういえば光の速さって時速10億8000万kmだっけ。そ、そりゃえらいことになるわよね……。あ、アレ? それ放たれたイスズさんは?


あ、同じように胸で全部弾き返してる。しかも着てる制服一切傷ついてない。こわ。



「どうせ防げるだろうと思って投げた私も私ですけど、なんで無傷どころか制服までそのままなんですかセンパイ。というかその服何? 新しいコス?」


「うにゃ? 普通の市販品だよ。単に魔力で強化してるだけ。……いやほら、学生の肌がはだけるのも大問題だけどさ、イスズちゃんの服がはだけるのも大問題じゃん。」


「いやまぁ解ってますけどマジでどうやってるんですかソレ。と、とまぁこんなふうにぃ、頭のおかしなひともいるけどぉ♡ 数学と科学を上手く使えば各段に強くなれるゾ♡ おつむのよわ~いミズキちゃんにはタイヘンかもだけど、お勉強頑張ってね~♡」


「は、はい! 頑張りますッ!」


「……どうしよセンパイ。後輩が凄く真面目でメスガキしてる自分が恥ずかしくなってきた。」


「安心しろ、イスズちゃんがまだJKしてるのよりマシ……。いやマシじゃないかも♡」


「は? コロス♡」



あ、あの。喧嘩されるのはまだ別にいい。いや良くないんですが、なんでアヤさん絶対負けるのにそうやって喧嘩売るんですか? 今だけで何回吹き飛ばされて……、いやなんで吹き飛ばされても復活できてるんです!? というかなんで私は人吹き飛んでるのにまだ正気保ってるんです!?!?!?



「知らないの~♡ メスガキは、ふ・め・つ♡ あとミズキちゃん、その真面な感性はほんと大事だから絶対守り抜きなさいね。センパイと一緒にいると色々狂い始めて私みたいになっちゃうから。」


「え、あ、はい。」


「ま、とりあえず今後は自分の魔法との付き合い方を上手くしていく感じかな。適当に光関係の研究論文と、構築式に関する論文集めておいたから、それ見ておいて。はいこれ。」







◇◆◇◆◇






「それで、次はマシロちゃんなんだけど♡ ……いやほんと基礎もだけど全部が不味いね。確か貴女の担当官って西でしょ? アイツ何やってんのよ。」


「ご、ごめんなさい……。」


「い、いやいいのよ? アイツとは同期だし、ちょっと色々言い合う仲だからそう言っちゃっただけで。でもほんと急いで最初から全部積み直さないと不味いよ。センパイの指導だから仕方ない所もあるけど……。たぶん得意魔法もソレじゃないだろうし。」


「え、そうなんですか!?」



この場にいない西への恨み言をいうメスガキに、ちょっと驚くマシロちゃん。


どもども、イスズちゃんだよ♡


トレーナーとしてやってきたメスガキちゃんと一緒に二人の変身と魔法を軽く見ていたんだけど、マシロちゃんの番でちょっと頭を抱えていたアヤことメスガキ。まぁマジで初心者だからねぇ。イスズちゃんとしてはだからこそ戦場に叩き込んで一から鍛え上げたかったんだけど、上からダメって言われれば諦めるしかない。


というか、得意魔法の話もう入れちゃうんだねぇ。イスズちゃんとしては後々でもいいかと思ってたというか、今は魔法を使う感覚に慣れた方がいいかぁ、って思ってたけど、メスガキは違うようだ。



(ま、別タイプの魔法少女だしねぇ。どっちがいいとかはないけど、今風なのはメスガキかな。やっぱり。)



強さではなく魔法少女としての分類なんだけど、イスズちゃんは昔からちょっと珍しいタイプ。というか古めのスタイルを使用するタイプだ。得意魔法とか基本使わず物理で何とかしちゃうやつ。でもメスガキ始め一般的な子達は得意魔法を上手く使いこなしていくタイプなんだよね。


ま、その辺りはイスズちゃんも理解してるし、二人のことを考えるとメスガキに任した方が良さそうと言うのも納得できる。だから口出しせずニコニコ眺めてるわけなんだけど……。というか西どこ行ったんだろ? 自分の担当が訓練してる上に同級生が来てるって聞けばこっち来そうなものなのに、仕事してるんかな?


まぁいいや。これ終わったら二人一緒に飯にでも誘おー。



「うん。たぶんマシロちゃんの得意分野が『植物』関連であることは間違いないんだろうけど、ちょっとなんか違うというか、ズレがある様な気がする。私の感覚になっちゃうんだけど、ね? でもそうなると外からとやかく言うのは不味いんだよな……。」


「そ、そうなんですか!?」


「まじかるまじかる。勝手に方向性決めちゃうことになるからねぇ。イスズちゃんその辺りよく解んないんだけど、多分100点満点ぴったりじゃないんでしょ、メスガキ。」



ちょっと悩みながらも、小さく頷く彼女。


私は魔法に得意も不得意もないし全部上手く使えばいいやろって感じなんだけど、比較的一般寄りなメスガキは私と違うことを考えている。


自分の根幹となる魔法を強く理解してから派生していかないと、どこかで崩れてしまうんじゃないかって不安に思ってるみたいだね。まぁ彼女自身『省略』っていう何をどうしてその魔法が得意ってわかったの? って奴抱えてるし、色々苦労したんでしょ。私が知ってるの高校生からだけだし、中学のころの苦難とか知らないし本人が言いたくなさそうにしてるから聞かない。



「多分だけど、植物を急速成長させて自由自在に動かすその魔法。副次的なものだと思うの、中央から外れて、85点くらい。センパイ色々適当だからまぁそれでいいやってなったんだろうけど、私としては早く本質を見つけた方が良いと思う。もう高1なんだし。」


「も、もう高1……。」


「今年からの貴女にはわかりにくいかもしれないけど、後3年もないの。昔の私もそうだったからあまり実感できないと思うけど、すごく短いの。本質を見極められなきゃずっと置いて行かれる可能性もあるし、あの子とコンビを組みたいのならもっと焦らなきゃ。」


「…………はい!」



ほんの少しだけミズキちゃんに視線を送るマシロちゃんだったが、すぐに目を閉じ息を吐き出した後、元気にそう答えている。


うんうん、青春してるねぇ。


ただまぁこれから地獄を見ることになると思うけど。



「トレーニングだけど、ちょっとマシロちゃんを優先的に見るわ。得意魔法の使用は一切厳禁で、基礎の魔力操作から叩き込む。ちょっと死んじゃうかもしれないけどセンパイに揉まれて死ぬよりはマシだろうし、全力でついてきなさいね。」


「はい! ……え、死ぬ?」


「うん。あ、でも安心してね。『再生』には一家言あるから。」


「イスズちゃんもいるぞ!」



死んでも死なないメスガキと、死なないし生き返らせるイスズちゃんの最強タッグだ!


本来再生じゃなかったことになっちゃう筋肉の疲労も超回復もしっかり再現した『再生』を付与してあげるから死なずに死ぬような特訓が出来るよ♡ やったね♡



「まぁそこまではしないけど、覚悟だけはしてね、うん。」


「そ、それってもしかして。死んだ方がマシなぐらいキツイって……、ことぉ?」


「「せ・い・か・い♡」」





「に、西さぁぁん! 助けてーー!!!!!」




その後、いっぱい訓練した。







ーーーーーーーーーーーーーーー





〇光の魔法


使い方次第では色々化ける魔法なため、上層部からもメスガキからも結構期待されている。


ただ光速で飛来する物体を生身で受けきったバケモノは『確かに強い魔法だし解釈で色々化けるのは知ってるけど、外れみたいな得意魔法でエグイ力手に入れる奴も知ってるんだよね。』と考えているし、『結局魔力で全身強化してぶん殴ったり、魔力ビームで消し飛ばす方が速くて強いから得意魔法の修練よりも基礎と実戦しとけば何とかなる』と考えている。


ちなみにルミナフィルことミズキちゃんが光速で動けるようになっても、イスズちゃんの方が速い。なんやこいつ。



〇その後の様子


流石に不憫だったのか、ミズキちゃんもマシロちゃんに合流して地獄の基礎訓練が開始。二人で最後まで頑張った。


もちろん悲鳴に反応して学園内の事務室から西が飛び出て来たが、『あぁうん。ごめんねマシロちゃん。頑張って』とだけ言って帰還した模様。気持ちは分かるけど、基礎疎かにしたら実戦の時ほんとに死んじゃうから……。まぁそれはそれとして、担当をいじめられたわけなのでキレた西が、訓練後にメスガキとイスズに突貫し、突如としてドリームマッチが開始。メスガキを一回ダウンさせた後イスズに突撃するが、普通に敗北した。



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