人間性の回復という主題

作者氏には冤罪をテーマとした他作品もありますが、こちらは主人公が”自裁”を選択しなかった後の可能性を掘り下げた感じでしょうか。

主人公の新たな出会いが、いわゆるざまぁ展開ではなく、破壊された人間性の回復過程という描写であること。
また、冤罪の発端を作った者や主人公を切り捨てた家族達が、それぞれ後悔と自責の念を背負いながらも過剰な報復を受けるわけではないあたりに、バランスと納まりのよさが伺えます。

序盤にのみ登場する、口では謝罪を述べる元親友や元彼女についても、冤罪をつくり追い込んだ当事者達とは立ち位置が異なり、主人公の緩やかな回復と平行して物語からフェイドアウトするのも当然と思わされます。
主人公の苦しみも彼らには結局はその程度の他人事であったということで、それも構成の妙になっていますね。