第2話 ケナイダー8000、来襲!

その音は、明らかに「犬」だった。


「ワン」


 単音。だが重低音。どこか機械的な気配をまとっている。

 ぼんちゃんがぴたりと動きを止め、しっぽを床にピタッと伏せた。


「……来たにゃ」


「え、まじで? いやいや、うち、普通の賃貸アパートなんですけど?」


「ケナイダー8000は壁を気にしないにゃ。インターフェースを直接この時空に書き込むタイプにゃ」


「何それかっこいい。ていうかこわい」


 玄関のドアノブが、**カチャ……カチャカチャ……**と、まるでコードを解析するような音で揺れた。


 そのとき、ぼんちゃんが走り出した。速い。普段、洗濯機の上に飛び乗るときの3倍くらいのジャンプ力。

 そして――壁に体当たりした。


「にゃぁっ!!」


 鈍い音。けど、なぜか壁のコンセントの部分が**バチッ!**と光った。


「緊急遮断にゃ。ポータル接続回路、いったん切断に成功したにゃ」


「……ねえ、ぼんちゃん」


「なんにゃ?」


「なんでそんな未来感ある単語、ぽんぽん出てくるの?」


「ぼくが何のために“こっちにきた”と思ってるにゃ」


「いや、そもそも“こっち”ってどこから……?」


 ぼんちゃんはふと、おやつの缶の上にぴょこんと座った。誇らしげな顔。


「未来にゃ。にゃん暦3089年。世界猫連合の指令で“ねこ型保守装置”として選ばれたエリートにゃ」


「エリートがそんなフニャ顔で座る?」


「これでも未来じゃ、にゃんこ大戦争の英雄にゃ」


「絶対ゲームと現実混ざってるでしょ」


 そのとき、再びドアがガタッと揺れた。


「だめにゃ……システム再接続。やつが来るにゃ!」


 ぼくは思わず声を上げた。


「どうすればいい!? 武器とかあるの? 水鉄砲とかキャットフード砲とか!」


「ひとつだけ、手があるにゃ……」


 ぼんちゃんが、ぼくの目をじっと見て言った。


「“ぼぼんぼんぼぼん”……歌うにゃ」


「えっ」


「やつは“それ”が弱点にゃ。ぼくのテーマソングがやつの回路に干渉するにゃ」


「音波兵器!? って、ぼんちゃん自分で歌わないの!?」


「ぼくは照れ屋にゃ」


「エリートなのに!? 英雄なのに!?」


 そんなやり取りのあいだに、ドアの隙間から冷たい光が漏れてきた。


 ――さあ、歌うしかない。


 ぼくは深呼吸して、静かに呟いた。


「……ぼぼん……ぼんぼぼん……」

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