詩織のその後





詩織の消息は、誰にも分からなかった。


街に残された部屋には、日用品と、◼️の幼い頃の写真が一枚だけ置かれていた。


まるで、自分の痕跡をわざと薄めるように、彼女はすべてを消して去った。


……でも、彼女は「消えた」わけではない。


誰かの記憶の底で、

誰かの後悔の中で、

あるいは“◼️”という存在の奥底で――まだ息をしていた。


数年後。


とある港町に、“静流”という名前の女が現れた。

彼女は鞄職人として、店の隅で黙々と作業をしていた。

人を遠ざけ、けれど誰かが泣いていると、不思議と声をかける優しさを持っていた。


目の奥に、深く沈んだ感情を抱えていた。


ある晩、彼女はノートに一文だけ書き残していた。


「あの子が生きているなら、それでいい。けれど私は、誰にも見つかってはいけない」

詩織は、自分の“愛”が破壊だったことを知っていた。


だから、償いのように静かに息をし、どこにも触れずに生きていた。


けれど、心の奥では。


“◼️”という名を、

“◼️”という存在を、

いまだに――探していた。


もし再会することがあるなら、それはきっと、赦しではなく罰だったろう。


でも、それでも――


「会いたい」と、心の奥でつぶやいてしまう自分を、

詩織は今も嫌悪しながら、どこかで、生きている。

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