7.レオンハルト=オーウェンという男-2-
『レオンハルト様が作るドールハウス、まるで職人が作ったかのようですわ・・・』
『そ、そうでしょうか?』
生活費と必要経費を引いて残った自分の給料をやりくりして作ったドールハウスは長閑な田園風景に似合う牧歌的な田舎の家だった。
『ええ。これはもう芸術と言ってもいいレベルですよ』
椅子やテーブルをはじめとする家具にカーテン、調度品にキッチン用品といったミニチュアは可愛くて質感があるだけではなく、まるで本物をそのまま小さくしたのではないか?と思えるレベルなのだ。
『あの・・・王女殿下?殿下はレオンハルトの事を男なのに女のような趣味を持っていて気持ち悪いとお思いになられないので?』
『どうして?趣味は心を豊かにするだけではなく、知識も得る事が出来ますわ。それにドールハウスという趣味は酒やカードゲームのような賭け事、何より外に情夫や情婦を囲ったり、娼婦や男娼を買ったり、伴侶や婚約者が居るというのに、伴侶や婚約者以外の者に貢ぐよりも遥かに有意義だと私は思いますが?』
私だって男同士の恋愛本を好んで読んでいますもの
疑問に思っていたのですが・・・レオンハルト様のドールハウス作りと蒐集という趣味が皆様に迷惑をかけたのですか?
シェリアザードの問いかけに、その場に居合わせていた者達は言葉に詰まる。
『シェリアザード王女・・・』
『レオンハルト様のドールハウス、とても眼福でしたわ。出来る事なら私のよ、よ、よ、嫁入り、道具、として・・・』
(王女の声に悍ましさが含まれているのは気のせいか?)
この言葉だけで救われ、自分に向けられる周囲の目が変わった事を感じ取ったレオンハルトはシェリアザードの趣味に理解を示すだけではなく同時に想いを寄せるようになった。
だが公爵子息とはいえ自分は四男で家を継ぐ立場ではないので、王女を妻に迎えるなど出来るはずがない。
しかもシェリアザードにはアーヴェルという婚約者が居る。
己の胸の内に咲き始めたシェリアザードに対する想いを枯らそうと、レオンハルトは彼女の嫁入り道具の一つとして自分で作ったドールハウスを贈ろうと意を決したその時、ある噂が耳に入った。
アーヴェルがミラという男爵令嬢と手を組んで婚約者であるシェリアザードに火を放って焼き殺そうとした
情婦を妻に迎えたいアーヴェルにとってシェリアザードは邪魔だから事故死に見せかけようと、何度も婚約者に対して刺客と殺し屋を差し向けていた
いや、自殺に見せかけて公爵家の邸宅から突き落とそうとしたと聞いたが?
俺は毒を盛ったと聞いたぞ?
えっ?俺は溺死に見せかけようとしていたと聞いたぞ?
真実は分からないが、とにかくアーヴェルとミラにとって最大の障害であるシェリアザードの命を奪おうとした事だけは分かった。
同時にレオンハルトは察する。
例えアーヴェル側の有責であったとしても傷物となってしまったシェリアザードには今後まともな縁談が来ない事も、状況によっては神殿に閉じ込められる可能性がある事も──・・・。
シェリアザードの今後を案じているレオンハルトに、自分が所属する隊の隊長から命令が下る。
冒険者となったシェリアザードの護衛になれ
これは国王陛下と王后陛下の命令である
───と。
「はっ!」
隊長の、否、娘の身を案じる国王夫妻の親心を受け入れたレオンハルトはシェリアザードの元に向かい、彼女だけの騎士になる事を誓う。
※レオンハルトが作っているドールハウスはカントリーハウス風、ヴィクトリア調、ロココ調、ゴシック調もあります。
後に和風、和モダン、中華風のドールハウスも作ったりします。
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