1.白竜王の番、故郷に帰還する-2-






「ここ・・・どこなのかしら?」


 神隠し?


 次元の狭間?


 幻覚?


 白昼夢?


 あの世?


 異空間?


 異次元?


 ホワイトホールの中?


 ワームホールの中?


 自分でも知らないうちに全てが白い空間に来ていたものだから、真珠は辺りを見渡しながらもオカルト番組を見て覚えた事をベースにして推測を立てていた。


「ここは生と死の間の世界。園宮 真珠さん、いえ・・・白竜族の長であるジュスティスの番たるユースティア=フロノワール王女よ」


 そんな真珠に声をかけたのは鎧に身を包んだ美しい女性。


「月の光を集めたかのような白銀の鎧、一対の剣、銀色の髪。まさか・・・」


 真珠の目の前に立つ女性はマリアライトの神々の一柱───戦いの女神であるティアナだ。


「貴女の魂は全ての神々の母にして黄泉の女神であるエル様によって修復された後、白竜族の長であるジュスティスの目が届かぬ異世界に転生させたのです」


 ユースティア王女、貴女は一度目とは異なり穏やかな人生を送り・・・・・・日本人として生涯を終えるはずでした


 ティアナ曰く


 まさか、白竜族の長の番を求める想いがユースティアの転生体である園宮 真珠こと私の命を奪うまでに強いものだったとは計算違いだったとの事だ。


「くそったれが!」


 一度ならず二度までも、まさかクソなトカゲ野郎に命を奪われるなんて夢にも思っていなかった真珠はティアナの御前であるにも関わらず愚痴を零してしまう。


「ティアナ様!ティアナ様のお力で私を生き返らせる事は出来ないのですか!?」


「私では不可能です。全ての神々の母であるエル様であれば可能ですが・・・園宮 真珠の肉体が荼毘に付されているとなれば例えエル様でも・・・」


「そう、ですか・・・」


 原作を読んでいるから展開は知っているけど、あのキャラの声優さんが誰なのか?


 休みの時にプレイしているあの乙女ゲームのスチルも全部埋めていないし、隠しキャラも出していない。


 途中で読むのを止めたあの漫画、何時になったら連載が終わるのだろう?


 あの漫画の続きはどうなるのだろう?


 プライベートでは夜しか眠れなくなっている真珠は思わず泣いてしまう。


「ユースティア王女。貴女の命を奪った白竜族の長に・・・いえ、白竜族の全てに復讐したいですか?」


「ティアナ様?」


 言葉の意味が理解出来ない・・・いや、言っている事は分かる。


 それが自分とどう繋がるのか。


 だが白竜族は神の代行者とでもいうべき存在。


 一部の種族では神とも崇められており、白竜を除いた全ての種族が一致団結して連合軍を編成したとしても、たった一頭でそれ等を倒せるくらいに強いのだ。


 そんな厄介な白竜族にどうやって復讐しろと?


 だが、真珠には自分の人生を二度も台無しにした白竜族を滅ぼしたい!という強い思いがあるのも確か───。


「ええ。白竜族の全てを単なる・・・冒険者や騎士達によって食料に薬、武器防具の素材として狩られる竜に陥れたいくらいに・・・」


「分かりました。我等も貴女に協力いたしましょう」


 ティアナ曰く


 神々も白竜族の驕りと傲慢不遜には手を焼いているのだが、古代ならともかく現代では神が直々に手を下すのは掟によって出来なくなっている、らしい。


 だが神以外の存在であれば問題ない。


 神様って時代に関係なく天罰を下せるのかと思っていた真珠であったが、人間が知らないだけで神の世界にも何かしらの規制があるのだ。


「ユースティア王女。貴女は武力でしか白竜族に当たるしかないと思っていますが、実際は貴女の言葉と態度だけで簡単に滅ぼせるのです」


 それは・・・


 貴女の心からの拒絶・・・


「番から拒絶されたら白竜族の長はショックと絶望で魂魄ごと消滅する。長を失った白竜族はどのような道を歩むのでしょうね?」


「ティアナ様が仰る事は何となく分かります。ですが・・・」


「そうですね。今の貴女は前世と違って身体と心は成長した。だけど、本性は幼いユースティア王女のままで白竜族に対して復讐したいという気概はあっても恐怖を克服していない」


 しかも相手に迫られてしまったら、白竜族に対する恐怖で竦んでしまう貴女は無理やり奪われてしまうでしょう


 一度でも【魂魄の契り】を交わしてしまったら最後


 自ら命を絶ちたくても出来なくなってしまった貴女は白竜族の長の番として悠久の時を生き、彼の者と同じ時に逝くしかないのです


 それを回避する為にはユースティア王女が持つ魔法の属性・・・木と土を極めるだけではなく己の身を護る為に体術や護身術等を身に付ける必要があるのだと、最終的には真珠の心の強さにかかっているとティアナが宣った。


「ユースティア王女。今から貴女を鍛えます」


(竜王の番としての力が覚醒するか否か・・・全ては彼女の心の強さに掛かっている・・・)


 修行で会得した魔法と体術と気功術等を魂に刻む事で、それ等を本人の天性の素質にするのだ。


「淑女としてのマナーと日常生活や常識等を教えるのは転生先の両親の役目ですね」


 得物は貴女と相性が良いものや憧れているものを選べばよろしいでしょう


「分かりました。よろしくお願いいたします!」


 故郷に帰還した真珠は最悪な未来を回避する為に、白竜族に復讐する為の力を身に付ける修行に励む───。






※ここには書いていませんが修行している間、真珠はジュスティスがユースティアのミイラの世話をしているところを見て「きもっ!」とか「きしょっ!」とか言って身体を震わせています。



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