滅びの鎮魂歌~竜王の番は竜王嫌い~

白雪の雫

1.白竜王の番、故郷に帰還する-1-






 航空ターミナルを紺色の制服に身を包んでいるCA達が颯爽と進む。中でも人目を惹くモデルといっても通用しそうな女性が居た。


 女性の名前は園宮 真珠まじゅ(26)


 学生時代はドラッグストアでバイトと年に二回のビッグイベント時には仲間と共に同人誌を描いたり、コスプレに勤しんでいたオタクにして腐女子。


 但し、腐女子仲間達からだけではなく両親に親戚、オタクでない友人達からは残念な美人とも言われていた真珠だが、大学卒業後は外資系の某航空会社のCAとなり、今はチーフパーサーを目指して日々努力をしている。


 そんな真珠だが、実は両親にも腐女子仲間達にもCA達にも打ち明けていない秘密があった。


 真珠の秘密。


 それは──・・・前世の記憶があるという事だ。


 えっ?


 お前、いい年をしている大人なのに中二病を患っているの?


 打ち明けられたら誰だって思うし、第一声がそれだろう。


 だが事実なのだ!!


 ・・・・・・尤も、真珠が前世を思い出したのは小学校低学年の時だが。


 真珠の前世は、フロノワール王国という地球では聞いた事がない国──・・・つまりマリアライトという異世界に建国した王国のユースティア王女だった。


 王女だったら人生勝ち組だと思うではないだろうか?


 確かに単なる王女だったら間違いなく人生勝ち組の部類に入る。


 だが、前世の真珠は間違いなく負け組である。


 というのも、真珠は白竜族の長であるジュスティスの番だったからだ。


 真珠本人もよく理解していないのだが、白竜族にとって番というのは『半身』とか『魂の片割れ』とか『運命』とか──・・・とにかくかけがえのない唯一の存在であるらしい。


 オメガバースを扱った漫画や小説を読めば、番というものが何となく理解出来るではないだろうか。


 オタクで腐女子である真珠だが、創作であるとはいえ番に対して嫌悪感しかなかったので学生時代からオメガバースを扱ったものは出来る限り目を通さないようにしていたし、漫画や小説の登場人物がジュスティスではないと頭では理解していても二十六歳である現在も目を通していないし、推しである声優さんがオメガバースを扱ったアニメに出ていたとしても一切見ていない。


 紆余曲折がありつつもαとΩは結ばれましたというハッピーエンドで終わっているという事実が気に食わないからだ。


 自分が気に食わないという理由だけで番を扱った漫画に小説、アニメに嫌悪感を呟いたら炎上間違いなしだから作品に対して凸とかしていない。


(下らない。「お前は俺の運命」とか・・・実に下らないわ!)


 但し、心の中で毒を吐いているが──・・・。


(・・・・・・・・・・・・何が番よ!)


 白竜族の長であるジュスティスの番──・・・つまりジュスティスの後継を産み落とす事が出来る唯一の存在だったせいで、真珠の前世であるユースティアはまだ七歳だったのにジュスティスをはじめとする白竜族によって天空城に拉致されたのだから───。


 光源氏も初恋の人である藤壺のように理想の女性に育てたいという動機で若紫を拉致したのも不純で気色悪いけど!


 紫の上を拉致監禁した上で彼女の人生を自分一択というものにさせた光源氏はサイコパスだけど!


 紫の上のように大切に育てられていたら、まぁ・・・時間はかかるかも知れないけど何とか心の折り合いをつけてジュスティスを許そうかと思うようになっていた、かも?


 否!


 例え大切にされたとしても、夫だという男から溺愛されていたとしても、真珠は、ユースティアはジュスティスの番として生きるという人生の選択肢しかない事を恨んでいただろう。


 番は【魂の片割れ】や【半身】なので大切に扱われるかと思いきや、現実は大いに違った。


 ジュスティス・・・真珠にとって、『自分にとってかけがえのない存在である』と言っておきながら幼かった自分を護ってくれなかったあのトカゲ野郎の名前を二度と口にしたくない。


 今後はクズとか下衆といった類の枕詞が付くと思うが、トカゲ野郎ジュスティスの事は『トカゲ野郎』と呼ぶ事にする。


 トカゲ野郎の唯一の番という事で私は正妃として後宮に入れられたユースティアであったが、人間の子供というだけで彼女はトカゲ野郎が囲っていた側室の雌トカゲ共だけではなく、天空城に拉致られてから付けられた侍女達に幼児虐待された。


 カビが生えたパンに、蛆虫が沸いて腐った肉が入っているスープは当たり前。


 当初はそれ等が一日三食出ていたが、日を経つにつれて二日に一食、三日に一食という風になっていった。


 飢えを凌ぐ為に幼いユースティアは土や草や木の皮を口にした。


 悔しかった。


 惨めだった。


 何より・・・悲しかった。


 泣けば雌トカゲ共から嘲笑される己の境遇にユースティアは声を押し殺して泣く事しか出来なかった。


 一国の王女であるユースティアが土や草を食べるなど乱世ならともかく、治世の平民よりひもじい思いをしていたのではないだろうか?


 それだけではなく夏は熱湯を、冬は冷水を浴びせられる。


 抵抗出来ないように押さえつけられて焼き鏝を押される。



『たかがこれしきの事で泣き喚くとは・・・』


『何と醜く耳障りな悲鳴を上げる喧しい小娘だこと』


『これだから人間の小娘は・・・』


『斯様な下品な声を上げる小娘が、我等が白竜族の長であるジュスティス様の番であろうとは・・・』



 悲鳴を上げて、のたうち回るユースティアを見て雌トカゲ共は下品で甲高い声を上げて笑っていたのだ。


 幸いな事に真珠の前世であるユースティアは回復系の魔法が使えたから何とか生き延びられたが、念の為に自分が雌トカゲ共から受けた仕打ちを日記に書いた上でトカゲ野郎とトカゲ野郎の両親に訴えた事もある。


 それをあのトカゲ野郎は・・・何てほざいたか。



『ユースティアの気のせいではないのか?彼女達はユースティアが私の唯一の番で、どう足掻いても自分達では私の子を成せないという己の身を弁えている』



 白竜族の長であるジュスティスの唯一の番だから傅かれる事はあっても虐げられる事はないのだと一笑に付し、彼等はユースティアからの必死の訴えを退けたのだ。


(・・・・・・・・・・・・)


 孤立無援で四面楚歌。


 護ってくれない事実にユースティアは全てに絶望した。


 当時のユースティアは子供らしい体型ではなく、栄養失調で腹部が膨れていたのに・・・だ。


 もう一度言う。


 栄養失調で痩せ細っていて頬や手足がガリガリだったのだ。


 それに気づかないトカゲ野郎はユースティアわたしの何を見ていたのだろう・・・?


 トカゲ野郎って神の代行者と崇められていても所詮は爬虫類。


 ダメンズに加えて哺乳類と比べたら脳と知能が発達していないのは当然だから仕方ないわね。


 いや・・・トカゲ野郎と比べるという行為は爬虫類に対して失礼にして侮辱でしかないのか・・・。


 真珠として生きている今であればトカゲ野郎に対してそう思えるが、生きる事に、世界の全てに絶望した当時のユースティアは十歳を迎える前に自ら命を絶った───。


 それからどうなったのかは覚えていない。


 ただ二度目の人生──・・・つまり園宮 真珠という日本人として誕生し、躾と礼儀には厳しかったけど優しい両親の元で育ち、オタクにして腐女子でありながらCAとなり将来はチーフパーサーになる事が目標になった。


 彼氏いない歴=実年齢で両親に対して孫の顔を見せられないのは申し訳ないとは思う。


 けど、一度目の人生の悲惨さとのバランスを取るかのように公私共に充実している人生を送っている健康優良児であるにも関わらず心臓発作を起こして倒れてしまったのだ。







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