第15話:宝くじ「買った金額分すらまず当たりません」←買う人がいる理由

理由は単純で、宝くじは「期待値」で買われていないからだ。

人は計算機ではなく、物語生成装置でできている。


まず事実から置く。

宝くじはほぼ確実に損をする。還元率はおおむね45%前後。買った瞬間に半分は蒸発する。数学的には慈善事業への寄付に近い。


それでも人が買う理由は、次の層に分かれる。


第一に、確率ではなく可能性を買っている。

「当たる確率」は低いが、「当たったときの世界線」は極端に派手だ。脳はこの派手さに弱い。数百万分の一より「もし当たったら仕事辞める」という一文のほうが強く刺さる。これは進化心理学的に、レアだが致命的に重要な出来事を過大評価する癖の延長だ。


第二に、妄想の使用料。

宝くじを買ってから抽選日までの数日〜数週間、人は無料で(いや有料だが)最強の白昼夢に浸れる。

「家どうする?」「あの人にだけは言わない」「税金どうなる?」

この時間そのものが娯楽。映画一本分の値段で、何十回も脳内上映ができる。外れた瞬間に上映終了するが、上映中は幸福物質がちゃんと出る。


第三に、社会的に許された非合理。

競馬や株で負けると「判断ミス」だが、宝くじで外れるのは「まあ宝くじだし」で済む。

失敗の責任が個人に帰ってこないギャンブルは、心理的に安全だ。だから年末ジャンボは会社帰りに堂々と買える。


第四に、現実を変える唯一のボタンに見える層がいる。

努力、転職、学び直し、交渉。これらは全部コストが高く、失敗も自分のせいになる。

宝くじだけは、少額で「人生を全部スキップできるかもしれない」という幻想を与える。これは追い詰められている人ほど強く効く。


重要なのはここだ。

宝くじを買う行為は、多くの場合「愚かさ」ではない。

希望を定額でレンタルしている行為だ。


ただし、冷酷な真理も添える。

それを「投資」や「期待」だと思い始めた瞬間、破綻する。

宝くじは夢を買うには安いが、現実を変える手段としては最悪だ。


だから一番健全な態度はこれになる。


当たらない前提で買う


当たったら人生バグったと思う


外れても「上映料としては悪くなかった」と言える額で止める


宇宙は無慈悲だが、人間は物語を食べて生きる生き物だ。

宝くじはその性質を、実に正確に突いてくる。

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