第17話
夕暮れの光が屋台の後片付けを照らす中、私はほっと一息ついていた。
ラムネの瓶はほぼ完売。地球ではお祭りの定番だったけど、異世界では珍しさも相まって子どもたちに大人気だった。持ち込んだ分は全て売れたし、空き瓶も「この玉がほしい!」と何人かが持ち帰ってくれた。
カナトくんの問いかけ――「転生って何?」というあの一言が、今も胸に残っている。
(やっぱり、ただの子どもじゃない……)
夢の中で誰かに「お前は転生してる」と言われた、って。しかも“思い出すと怖い”って……。
あの子が見せた怯えたような表情は、きっとただの空想ではない。私は確信しかけていた。彼は――地球からこの世界に来た、転生者だ。
ただ、それを騒ぐ気はない。
カナトくんが安心してこの場所に来られるようにすることが、今の私にできること。
「さて……次は何を準備しようかな」
頭を切り替えて、私はノートを開いた。
この異世界店舗、いまは“発注機能”が解放されたので、地球の商品をここから直接注文できる。以前のようにわざわざスーパーに行かなくてもいいから、本当に便利だ。
(とはいえ、異世界の物価と釣り合いの取れるものじゃないと)
お菓子類はわかりやすく売れたけど、今後は実用的なものも必要かも。たとえば――
「ナイロンスポンジ」とか「チャック付き保存袋」、あと「アロマオイル」とか「ミニタオル」……あ、でもアロマは香りの好みもあるか。
いろいろメモしていると、屋台の近くで小さな声が聞こえた。
「……あの、咲さん。今日もすごかったですね」
振り返ると、アランくんとデュランくん、それにイグラムくんがいた。イグラムくんはきちんと背筋を伸ばしていて、どこか凛々しさがある。領主様の息子、という肩書きに恥じない態度だった。
「ありがとう、イグラムくん。楽しんでもらえたならよかったよ」
「ラムネ、美味しかったです。あれ、今度は父上にもぜひ……」
「領主様にも? うん、今度持っていくよ。きっと喜んでくれると思う」
それを聞いたイグラムくんは、少し照れたように微笑んだ。
(……ああ、やっぱり“父上”呼びは良いな。ちゃんと敬意があるのに、親子の距離感も感じられて)
アランくんとデュランくんは、何やら瓶のビー玉を転がして遊んでいて、ちょっとだけはしゃぎすぎてる。すると、少し離れたところからお母さんの声が飛んできた。
「こら、あんまり騒がないの! 咲さん、お騒がせしてすみません!」
「あ、いえいえ! 全然大丈夫ですよ。元気が一番です!」
そう言うと、お母さんはにこやかに微笑んでくれた。お手製らしいエプロン姿で、家事の合間に来たのだろう。いつ見てもきちんとしていて、頼れるお母さんという感じだ。
「今度、うちでも咲さんの美容クリームを試してみようかと思ってて。あの、手荒れがひどいので」
「もちろん! 香り付きのもありますので、お好みを教えてくださいね」
(この世界、思ったより“自分に手をかける文化”が広がっていないのかも。だから、ちょっとしたケア商品が喜ばれるんだ)
それってつまり――商機、ってことだよね!
子どもたちと一緒に笑いあいながら、私は頭の中で次の一手を考えていた。
商品、品揃え、屋台の装飾、呼び込みの言葉――
少しずつ、この異世界での「お店」が、ちゃんとした“存在”になってきた。
次はもっと、たくさんの人に来てもらうために。
よし、準備するぞ!
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