第11話
「こんにちはー!」
元気な声とともに現れたのは、ふわふわの耳が愛らしいミーニャちゃん。今日はなんと、領主家のメイドさん二人に付き添われてやってきた。
「今日は“お店の準備”を見せてくれるって聞いたの!」
目をきらっきらに輝かせながら、ミーニャちゃんは異世界店舗のカウンター越しに立っている私に身を乗り出す。
「うん!今日はね、飴を瓶に詰めていく作業を一緒にやろうと思って。よかったら、好きな飴を選んでいいよ」
「ほんとにいいのっ!?」
すっごく喜んでくれて、私のほうが嬉しくなっちゃう。
テーブルの上にカラフルな飴玉たちをずらっと並べると、ミーニャちゃんの目がますます輝いた。
「わぁ……きれい……」
四角いフルーツキャンディ、ミルク味、缶入りのレトロ飴、乳酸菌のまんまる飴……どれもこれも、ちっちゃな宝石みたいに見えるらしい。
「この丸いの、雪みたい……。これは……お花?」
「そうそう、日本の“和飴”っていうのもあるんだ。季節のお花とかをモチーフにしてるの」
「ほんとうに素敵……!」
ミーニャちゃんは一粒一粒を指先で大事に選び、瓶に詰めていく。
まるで“飴の宝石箱”を作っているみたいだった。
***
作業がひと段落したところで、私はお店の片隅にあるノートを取り出した。
表紙には、マステで飾った手書きタイトル。
『持ち込み商品で異世界交流!』
「これね、私の“お店の記録ノート”なの。何を仕入れたかとか、どんな人が来てくれたかとかを書いてるんだ」
「日記、みたいなもの?」
「うん、そんな感じ」
ミーニャちゃんが興味津々にのぞき込んでくる。かわいい。
表紙を開けると、飴のラベルやハンドクリームのパッケージ写真(スマホで撮ってプリントしたやつ)を貼ってあるのが目に留まる。
「わぁ……こんな風に書き残せるんだ……!ミーニャもやってみたい!」
「じゃあ、このページに今日の瓶詰めの記録、書いてもらっていい?」
「えっ、いいの!?」
彼女は目をまんまるにしてから、こくりと頷いた。
そして、筆記具を渡すと、小さな手で一生懸命に――
「ミーニャの宝石びん」
って、ページの真ん中に書いてくれた。
その文字が、なんだかすごく温かくて。
***
「そうだ、お礼に何か特別な飴を仕入れておこうかな」
帰り際、私がそう言うと、ミーニャちゃんは耳をぴくっと動かして言った。
「ミーニャ、においのする飴がすき!」
……においのする飴?
あ、もしかしてフルーツの香りが強い飴とかのことかな?
「それならね、日本には“匂いを楽しむ飴”っていうのもあるんだよ。バラの香りのとか、ラベンダーとか」
「お花のあめっ!? すごい、すごい……!」
ミーニャちゃんは興奮気味に両手をぱたぱた振っていた。
これは次の仕入れ、張り切るしかないな……!
「じゃあ次は、“お花の香りの飴”を作る準備、しておくね」
「うんっ!」
異世界での小さなお客さまとの時間は、ゆっくりとだけど確実に、私の“お店”を広げてくれている。
少しずつ、でも確実に。
---
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます