第28話口は禍の元

「というわけで君達、アルマ王国とやらへ行って来てくれたまえ。足は私が用意しよう」


「「えぇ!」」


 あっさりとそう指示された私は、いきなり今一番行きたいくない場所へと送り出された。




「なんで俺がそれに付き合わされるんだろうなぁ……」


 研究員Aは苦い顔でぼやく。そんな彼にカミラは苦々しく顔を顰めた。


「……逃げてもいいんじゃないですか? ドクタークレイは追ったりしないと思いますけど?」


「そんなおっかねぇことできるか! 追わないのと追えないのはちげーんだよ! 怒りを買って気まぐれで改造とか勘弁だろ? ……それにだな。正直他所に行きたくない。俺はハンバーガーを食べたいんだよ」


 うむと馬鹿なことを言いながら力強く頷く研究員Aは本気らしい。その涎が如実に心情を物語っていた。


「……俗物め」


「なんかひどいこと言っただろう? これでも俺、協力者だぞ? 一人で馬車動かせんのかい? ……というかドクターはどこから馬車なんて手に入れたんだ? 昨日までなかったよな?」


「……さぁ? 考えるだけ無駄ですよ」


「……それもそうだな」


 馬車に揺られて街道を進む一行の中に研究員AとBの姿はあった。


 そして彼らと共に進むのは盗賊のアジトで捕縛されたという、騎士達である。


 彼らの歩みは整いすぎていて、とても捕縛されて無理やり歩いているようには見えなかった。


「なぁ。あんたたちは今……どんな感じなの?」


「……」


 ただ研究員Aが話しかけるとあまりに反応がなかった。


 ドクタークレイに抜け目はなく、すでに完全に支配されている状態のようだった。


「仕込みにぬかりはなさそうだ……やっぱおっかねぇわドクターは」


「みたいですね……彼は私に何をさせたいのでしょう?」


「さてね。まぁ俺は実は久々の王都が楽しみだけどなぁ! ガキの時に親父に連れられて来た時以来だよ」


「……暢気なことを言いますね」


「仕方ないだろ? 真面目腐ってたら、ここ数日で頭がおかしくなってた自信がある」


「……そうかもしれませんね」


 改めてカミラはここ数日で起こったことを思い出し、思わず頷いていた。


 今までの常識が通用しないドクタークレイとの生活は、まるで夢物語の中に取り残されたようだった。


 何不自由がないようで、どこか決定的な不安と恐怖がすぐそばに立っているようなそんな空気があそこにはある。


 王都が近づく。


 正直、この国に再び戻って来ることをカミラはあきらめていた。


「よし。王都の門が見えて来た。じゃあお前ら手筈通り、俺達を中に案内頼むぜ」


「……」


 コクリと騎士は頷く。


 そして―――入国前に手早く騎士達は研究員Aを拘束した。


「え? いや、なにやって……!」


 猿轡をかまされた研究員Aは袋に詰められて、衛兵に突き出された。


「こいつは魔境の族だ。尋問するからすぐに城に送ってくれ」


「わかりました。ご苦労様です」


「ああ。何かと騒がしい賊だ。猿轡はとらない方がいいぞ」


「ハハッ、了解です。ホラ行くぞ」


「……」


 なるほど、こうやって中に入るわけだ。


 さらば研究員A、確かに衛兵の目は罪人にくぎ付けである。


 更に騎士達はカミラというオマケを気にしない保証になっているらしい。


 でもここから先どうなるのかはわからない。


 なにせ、向かう先はきっと同じだからだ。


「―――あなた、口が聞けたのですね」


「はい。では城までお連れ致します。カミラ王女」


「……」


 ここに来てずいぶんと流暢にしゃべるものだとカミラは思った。


 これはドクタークレイの思惑の内なのか?


 それともこの騎士達の意志がドクタークレイの思惑を超えたのか? カミラには判断がつかなかった。


 芋虫のようになったまま暴れている研究員Aには、あの様子を見るになにも知らされていなかったようだ。


 ゴクリといつしか溜まっていたつばを飲み込んで喉が鳴る。


 もはや選択肢はない……いや選択肢はずいぶんと前にあったのか。


 無数にあった選択の中で、彼の提案にカミラはイエスと答えた、それがすべてなのだろう。


「……彼が来なかったらなくなっていた命です。なら最後まで彼の思惑に従いましょうか」


 私は騎士の手を取り、自分の足で歩き始めた。


「行きましょう。王城ですね?」


「はい」


 カミラは騎士の言葉に従う。


 ただ緊張のあまり、カミラは付いてきていた騎士の姿がこっそり一人消えていることに気がつくことはなかった。

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